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リアルコバさん

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《ジャック・ター》

18/01/28 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:270

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「いらっしゃいませ」
「・・・」
いつもの笑みを持たない彼女がカウンターに座った。
「何にいたしましょうか」
「・・・」 
「イタリアのいいワインも入ってます・・・」
ワイン好きな彼女だから喰いいてくると思ったのだが、今日はご機嫌斜めのようだ。
私が間を於こうとグラスを手に取ったその時
「マスター、ジャクターって知ってる?」
「カクテルですか、珍しいですね」
「どんなお酒?」
「ラムベースでフルーティーですが、強いですよ」
「それ頂戴」
「かしこまりました」

私は氷を細かく砕きまずシェーカーを冷やす。
一度氷を捨て更に細かい氷を詰めてレモンハートデメララ151と云うラム酒を
それにサザンカンフォートと云うオールマイティーなリキュールを加えシェイクする。
クラッシュアイスを入れたロックグラスに移しカットライムを添えて出すのがウチのやり方だ。

「美味しそうね」
琥珀色の氷の中を絞ったライム果汁が落ちていくのを彼女はじっと見ていた。
「正確には《ジャック・ター》、中華街の老舗バーで作られたオリジナルカクテルです。よくご存じでしたね」
「ちょっとね、飲んでる人から美味しいって聞いて・・・」
溜息のようにはかなく消える語尾は、案の定愁いを帯びていた。嘘のつけない彼女である。

いつもの常連の男がいつものようにグラスを持ってカウンターに近づくのを眼で制した。
私のアイコンタクトを彼女の背中に読み取り、元の席に戻ってからから彼女にそっと乾杯した。
我ながらいいお客たちに恵まれている店だと思う。
そして彼女が通うようになって1年と少し、店のマドンナと云う処か、
私はターンテーブルのレコードを替えグリルの換気扇を廻し煙草を出した。

「ねぇマスター私に煙草一本くれるかなぁ」
「吸うんですか」
「あら昔はヘビースモーカーよ」
「そうですか」
レジ横の引き出しから
新しいパッケージの封を空けて灰皿と共にジッポーのライターを置くと
「一本でいいの」
「お好きなだけ一本をどうぞ」
やっと笑った。

「あのねマスター私さ・・・」
彼女の吐き出した煙がダウンライトの中に躍り、小さな物語のように照らされて行く。 
その間彼女の携帯が3回震え、3回とも無視された。
「この曲ルパンだよね、あんな人いないかなぁ」
《Love Theme》ルパン三世の劇中化がジャズ調にアレンジされた曲だ。
「よくルパンだなんてわかりましたね」
いつの間にか彼女の右薬指から指輪が外され指の間で弄ばれていた。
「ルパンに惚れたら気が休まる暇がないですよ」
「そうね・・・」
琥珀色の液体を唇に当て彼女が続けた。
「でもさ男って盗んだ心を何処に捨てちゃうんだろ」
「捨てられないんですよ、案外男ってのは」
「じゃどうして・・・まぁいいか」
ジッポーの火がまた煙草に触れた

失恋を繰り返す分だけ女は、影を付けて美しくなる私はそう思ってる。
「なんかさ・・・淋しいわ」
コクンと喉を鳴らしてジャック・ターを飲み干した。
「水夫って意味なんです、いま飲み干したジャック・ターは水夫」
彼女の前から離れた。
飾られた爪の先で弄んだ指輪が灰皿に落とされた。
「水夫か・・・そうかもね」

囁く様な話声と古びたポスターと鏡とボトルと、ただそれだけの店は、
今日もまた一つ溜息を吸い込んだらしい。
「どうぞ私からです」
飲み干されたクグラスを下げてワイングラスに赤紫の香を満たした。
「君達も飲むかい」
数人の客で《今日》と云う名のボトルは空になった。

《Bon soir》これが私の店の名前だ。
さぁ明日がもうそこまで来てますよ。


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