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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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うらじろ

12/12/24 コンテスト(テーマ):第二十回 時空モノガタリ文学賞【 お正月 】 コメント:13件 そらの珊瑚 閲覧数:2693

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 家の裏山の一角にしのぶの葉が茂っている。お民は思う。このような陽の当たらぬ年中じめじめとしている処に生きているのに、この葉の裏は何故ゆえ、白いのか、と。
 
 女の人生はつくづく男によって左右されるものだと思う。幸せな時は雪のように儚いものであった。
 五年前、望まれて嫁いだ夫は、あっけなく流行病(はやりやまい)で亡くなり、若い身空(みそら)でお民は寡婦となった。
 
 悲しみにくれている時間さえなかった。数えでよっつの幼い竹一を女手ひとつで育てていかなければならない。それは容易なことではないということだけを強く感じた。
 古着屋を営む実家の両親は既に亡く、兄の代になっていた。商いを実際に取り仕切っているのは、しっかりものであるが、なんにつけても吝嗇な嫁で、今さら世話になるのは気が引けた。
 金の無心をするために幾度か行ったが、気の弱い兄が義姉の顔色ばかり伺っているのを見て、気持ちが萎えた。しょせん兄妹など、血はつながっていても、我が身が一番大切なのだ。
 金のことをついぞ言い出すことが出来なかったのは、義姉に対するつまらない女の一分の虚栄(みえ)であったのか。
 早々にいとまをしたが、出されたのは出がらしの茶一杯で、義姉は別段引き止めもしなかった。内心ほっとしたのが、手に取るようだった。
 
 つてをたよって、あばらやを借り、着物の仕立てをしたり、細々と野菜を育てながら、どうにか生計を立ててきた。
 大家である農家の好意で、稲わらを分けてもらい、新年を祝うしめ縄を作り、歳の市で売ろうと目論んだ。しのぶの葉はそれに飾るためのものだった。あとはだいだいの実を飾れば立派なお飾りになるであろう。
 うまくいけば、正月に竹一に餅を食べさせてあげられるかもしれない。
 母親の傍らで一緒になってしのぶを摘む小さな手。竹一は幼いながらに母親の手伝いをしているつもりであった。あどけないほほには寒風が吹き付け、赤くなっている。
 年々夫の面差しに似てくるようだ。そのたびに、私は想うのだろうか。
 
 ──なぜ、私を置いて逝ってしまったのかと。

 詮無いことだと思いつつ、金の工面で疲れすさんでいく心に、恨みごとのひとつもいいたくなるではないか。

 言い寄ってくる男もいた。面倒をみようじゃないかと。いまさら、おぼこではあるまい、と。
 大店の妾となれば、竹一にだって、新年の晴れ着も着せてやれるかもしれない。継ぎを重ねた薄い木綿の着物でなくて、綿入りを着せてあげたい。
 いいや、それは言い訳だ。本音を言えば、楽をして生きていきたい。それなら心が何色になったっていいじゃないか。もとより、心など人から見えるわけじゃなし。
 
 その時だった。
 異様な気配を感じてふりむくと、大蛇が藪のなかから竹一をじっと見ているではないか。
 蛇はなんでも丸呑みにするという。実際、蛇がまるまる一頭の鶏を飲んでしまったという話は聞いたことがある。
 まさか、人を? 竹一を? 冷や汗が脇の下をつつーと流れていった。
 とっさに傍らにあった石をその大蛇めがけて投げる。
「この野郎! この野郎!」
 何ども、何ども。やみくもに石を投げながら、怒涛のように涙が出てくる。
 
 蛇はとうに山へ去っていったようだ。
 それでもお民は、得体の知れない何かに抗うように、しばらく石を投げ続けていた。

 しばらくしてからである。竹一の泣き声ではっと我にかえった。

 しのぶの葉の裏はしみじみと白い。別名『うらじろ』と呼ばれている。竹一と一緒なら、私もこんな風に生きていけるかもしれない、いや、生きていきたいとお民は思った。

 ──おまえにはきっと母の心が見えるだろう。おまえの真っ白な心が、この母に見えるようにね。


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このストーリーに関するコメント

12/12/24 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

お正月の「うらじろ」でこんなな深い話が書けるなんて・・・。
凄いと思いました。

この大蛇は来年の干支にかけているのだとは思いますが
お民の「運命」的なことにもかかっているのでしょうか?

静かな感動を呼ぶ作品でした。

12/12/24 ドーナツ

拝読しました。

恋歌さんも書いてますが、私も、巳年のこと思いました。それとうらじろも蛇も背と腹の色が違うから、それともかけてるのかなと。

ぎりぎりの崖っぷちで必死に生きてきた母、でも心の中ではものすごい葛藤があって、だからこそ、白を欲するのかな、そんなことを考えました。

12/12/24 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

運命とは、時に過酷なものです。幼子を抱え女一人残されて、昔のこの時代に、生計はしていくのは大変な困難なことだったと思います。

妾として楽をしても白い心は持てない、うらじろを通し、息子の心の目を大切にしようと決めたくだりも感銘を受けました。

巳年にかけて大蛇を女の前に立ちはだかる得体のしれないさだめとして描かれている手腕は素晴らしいです。

12/12/28 笹峰霧子

情景描写がこまやかで、時代物の雰囲気がよく出ています。
うまいですね。

12/12/29 石蕗亮

そらの珊瑚さん
拝読しました。
心の均衡を保つのは時にとてつもないエネルギーを必要とします。
言い寄る男をあてにせず、女手ひとつで生き抜く姿に母の強さを見た気がします。

12/12/31 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

大蛇はほぼおっしゃるとおりです。
自分の手で運命に立ち向かっていく決意をさせてくれた
大蛇は、もしかしたらそのことをお民に告げたかったのかもしれません。

12/12/31 そらの珊瑚

ドーナツさん、ありがとうございます。

あっ! そういえば蛇の背と腹も違いますね! 全く意識してませんでしたので教えていただいて感謝です。

白にもたぶんいろいろありますが、強い色ではないかとおもいます。

12/12/31 そらの珊瑚

霧子さん、ありがとうございます。

時代物は読むのも結構好きなジャンルですので、雰囲気が伝わって嬉しいです。

13/01/01 そらの珊瑚

石蕗亮さん、ありがとうございます。

独りでは難しくても、守るべき子供がいるというのは
母を強くしてくれるかけがえのない存在なのだと思います。

13/01/01 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

貧しくとも凛として生きていく決意をするお民のことを
わかっていただいて嬉しいです。

13/01/07 鮎風 遊

いつもいい話しですね。

題材となるもの、今回は「うらじろ」、それが趣があります。
私もこういうものを選んでみたいと思いました。

14/11/05 てんとう虫

こんにちはまるで小学生の頃に買ってもらった地名ごとの昔話のような味わいですね。親子で寄り添いながら切ないながらも読んでいて私も頑張りたいと思う作品でした。

14/11/05 そらの珊瑚

鮎風 遊さん、ありがとうございます。

この植物が小さいころから身近にありましたが
名前を知ったのはごく最近のことです。

てんとう虫さん、ありがとうございます。

そんなふうにこの物語を受け止めていただけて
作者として嬉しいかぎりです。

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