1. トップページ
  2. ビールの味は苦く、遠く。

のあみっと二等兵さん

慎重になり過ぎて、石橋を叩きすぎてカチ割るタイプ。 そんなわたくしですが、気軽に感想などいただけますと嬉しく思います。 コメントはちょっと……と思われましたら、評価ボタンだけ押し逃げしていただいても構いません。宜しく御願い致します。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 時にアグレッシブにフルスイング!

投稿済みの作品

2

ビールの味は苦く、遠く。

18/01/22 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:1件 のあみっと二等兵 閲覧数:584

この作品を評価する


私の父の話をしよう。
父はとにかく呑むのが好きで、それは体臭がアルコールの匂いがするくらいだった。

私が中学二年の時、末期癌だと解って。
「あと3ヶ月でしょうか」
そう言われたと、母は私と兄を集めて、泣いて告げた。
私はまだ子供だったからか、すぐには受け入れられずにいて。
だって、つい最近まで仕事に行く父の背中を見送り。帰ってきたらとりあえず瓶ビールを一本、ハイペースであけてから、風呂に入る。
そしてまたビールを呑んで。
今度は焼酎のお茶割りに移行。
おかわりは当たり前だ。
だけどベロベロに酔う訳でも無く、二日酔いをする訳でも無く。
次の日はケロッとしてまた仕事に出掛ける人だった。
職人だった父は、仕事前でも、冷える朝や、よく解らないけど一杯引っかけてから仕事に行く時もあった。
まるで水のような感覚なのか?と不思議に思ったりもした。




末期癌でホスピスに入れられても、父は病院を抜け出しては、近くにある立ち飲み屋に呑みに行く程で。


でもそれも出来なくなる頃。


一時帰宅が許された。
しかし容態次第で、次に病院に戻ったら、出れるのは亡くなってからだと主治医に言われた。



私は夏休みで。
家で父と二人になる時間が多くなって。
自分の部屋にいても、しょっちゅう呼ばれた。
「何?」
面倒くさそうに顔を出した私に、
「お茶割り作ってくれよーぅ」
父は子供みたいにせがんだ。
末期癌だと、本人には伝えていない。
だから好きなようにさせてあげよう。
家族でそう決めたから。
だけど当時の私は、目の前にいる父がもう少しで居なくなる実感もわかないし、想像もしたくなかった。


だって父が、大好きだったから。




3ヶ月、と言われたが。
父は9ヶ月頑張って、逝った。




それから成人を迎えた私は、父の墓参りに行く度に悔いていた。
何故あの時、面倒くさそうに酒を出したのか。
何故笑顔でお茶割りを作れなかったのか。
何故───自分の部屋にこもらずに、酒を呑む父の隣で、沢山話をしなかったのか。


私は父から、弱っていく父を直視出来ずに逃げたのだ。


「ごめんね……?」

真夏の日差しで焼けるように熱くなった墓石に水をかけながら、ボソッと呟いても、勿論返事などある訳もなく。
私は父が好きだったビールをコンビニの袋から2本取り出して、開ける。
「はい、どーぞ」
1本は父に、もう1本は自分のだ。


楽しみな事、沢山あったはずだった。
娘といつか、こうして酒を呑んだり。
娘の花嫁姿を見たら、どうせ男泣きで酒を呑んで、きっと酔ったふりをして私の旦那を意味も無く殴ったりしたんだろうね。
容易に想像がつくから、笑いを堪えるのが大変だ。


実際。

「お前に彼氏が出来たら連れて来い。俺の拳を喰らって立ち上がって来た奴しか認めねぇ!」

「立ち上がって来たら、どうすんの?」

「杯を交わすんだ!」

まだ幼い私に本気で言うような人だったから。





「私がまだ嫁に行けないのは、お父さんのせい?」



なんて言ってみるが、そんな訳は無い事は自分でよく解っている。

こうして墓石の前で毎年、私は独り事を言い続けるんだろう。

蝉が煩い程無く中。

「じゃあ、また来るからね」

立ち去ろうとした私は、足を止めて振り返ると、少し酔っている口調で言う。

「あのさ。私、ビールの味……大人になってもやっぱ解んないや。だから次は私チューハイ買ってくるね?」

ゆらゆらと立ちのぼる熱気と線香の煙の向こうで、



気にすんな。




そう言って、笑ってくれた気がした。










−終わり−


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

18/01/23 文月めぐ

『ビールの味は苦く、遠く。』拝読いたしました。
癌で弱っていく父に対して何かできたのではないかと後悔する「私」。
大人になってお酒が飲めるようになっても、ビールの味が解らないと言う「私」はまだまだ父に追いつけないのでしょうね。

ログイン