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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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歳の瀬に

12/12/23 コンテスト(テーマ):第二十回 時空モノガタリ文学賞【 お正月 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1867

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奉書紙を引き伸ばし、文鎮を据える。
硯に水を一滴、ゆっくりと墨を磨る。
水を一滴、また一滴。
落としては磨り、磨っては落とす。
単調に手を動かしながら、頭の中では書き付けるべき言葉をまとめて行く。

`置き土産
`年賀の品
`筆、墨

そうだ、箸もいるな。
長く真っ白なヒゲを撫で下ろしながら、翁は一人うなずくと墨を置き、筆をとって

`箸

と、まずそれから書き付けた。
くすくすくす、と背後から聞こえた忍び笑いに振り返る。
童子が両手で口をおさえ、こらえきれぬと言った風情で笑っていた。

「なんじゃ、もう来ておったのか」

「はいな。働き者は支度が早い。
 しかし、じじ様。書き付けの巻頭に『箸』とは。
 いかにも食い気のたった御前様らしい」

「そう笑うものではないよ。なにせ正月の小豆餅は何よりの楽しみ。
 お前様だとて楽しみで涎が止まらぬのだろうに」

「さても。われらの楽しみなどというものは、小豆餅程度なものゆえ」

「なにをなにを。次の春には赤子が来ようほどに」

「なんと、赤子か。それはめでたい。ようよう祝おう」

「おうおう。祝うてやってくれ。
 そうじゃ、お前に置き土産をと思うておった。こりゃ書かずに済んだわい」

じじは袂から一本の細い棒を取り出して童子に渡した。

「筆の軸か?」

「そうじゃ。赤子が産まれたら、最初の髪で筆をお作り。文字が上達しようほどに」

「ありがたや。いただいておこう」

童子は未完成の筆を懐に仕舞う。

「さてさて。お前が来てくれたなら、この家のことは済みとしよ。
 ゆるりとさせてもらおうぞ」

「何を、じじ様。年の暮れまでは御前様の仕事。きりきり働いた、働いた」

手枕に横になろうとしていたじじは、童子に追われ立たされた。

「いやいや、年寄りは敬いたまえよ」

「何を、じじ様。昨年の暮れは同じことを前の歳神になされたろう」

じじはにやり、と笑う。

「おう、お前、どこぞに隠れて見ておったか」

童子もにやり、と笑う。

「同じ歳神のすること。見えまいか」

じじと童子は顔を合わせてカンラと笑う。
これはどうやら良い歳になりそうな気配でござる。


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