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羽海 灯さん

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ふつかよい

18/01/10 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 羽海 灯 閲覧数:381

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久々に暖かくなった日曜日。
俺は何とも言えない頭の痛さと、内臓がひっくり返るようなムカつきを抱えたまま、ベッドの上で呻いていた。
カーテンの隙間から、朝日にしては明るすぎる光が飛びこんでくる。
無遠慮な光が瞼の裏でチカチカとやかましい。
本来なら感じる筈のない眩しさは、頭と足を逆向きに寝ていたせいだ。
せめてきっちりカーテンを閉めるか、ちゃんと枕に向けて倒れ込めと、昨夜の自分に言ってやりたい。
俺は重たい身体を無理矢理動かし、逆さになっている自分の体を入れ替えた。
たったそれだけの動きで、身体中が文句を言ってくる。
久しぶりに会った後輩と話が弾んで、酒豪の奴につられてハイペースで飲んだのが悪かった。
せっかくの休日が二日酔いで台無しだ。
もう酒は飲まない……
人生において何度繰り返したかわからない誓いと共に、俺はやけに存在を主張する胃袋を恨んだ。

水……
その辺に転がっているであろうペットボトルを探して、見下ろした床の上。
目に入ったのは、無造作に転がる小さな包みだった。
なんだっけ……
考える事を拒否する頭を無理矢理動かしながら、手を伸ばす。
包みを取り上げ寝転がったまま乱暴に破こうとして、ふとそのデザインに手が止まる。
……思い出した。
これを渡してきた時の、奴の笑った顔が目に浮かび、そのまま床に放ろうとして……
仰向けになった腹の上に着地した。

学生時代の後輩から、久々に会わないかと連絡が入ったのは、残業を終え、ようやく電車に乗り込んだ金曜日の夜だった。
地元の駅で降りてすぐ掛け直した電話はワンコールで繋がり、その場で翌日飲みに行く約束をした。
会うのは実に十数年ぶりだったが、相変わらず話が尽きなかった。
つい飲み過ぎてしまうくらい楽しかったし、やっぱりあいつと飲む酒は、美味かった。
お互い、最後に会った時の事など忘れたような、何年も会ってないなど嘘のような、そんな時間だった。

そもそも、あいつとの出会いは学生時代のサークルだった。
食べ物の好みが同じだった俺らは、向こうが成人して堂々と酒を飲めるようになってからは、ネットで評判の店を調べてはよく二人で飲みに行った。
俺は昔から酒が弱かったが、あいつと飲むのは楽しかった。
暇さえあればしょっちゅう二人で飲みに行って、サークル仲間にもよくからかわれた。
その関係は俺が大学を卒業してからも続いたし、そのままずっと続いていくものだと思っていた。
だが、あいつは大学4年の春、突然学校を辞めた。
夢を叶える為に上京して専門学校に行くなんて言い出して。
今更なにを馬鹿な事をと思った。
直接本人にも言ったし、初めてそれで喧嘩をした。
でも、あいつの決意は固かった。
結局喧嘩別れのままあいつが上京し……それきりだった。
何度か連絡をしようと思ったが、あんなにつるんだ相手を快く送り出せなかった自分がちっぽけで、何を言えば良いのかわからなかった。
何でもっと応援してやらなかったんだろうと思う。
あの頃の俺は、あいつ……いや、彼女が、自分の側から居なくなるなんて事が、全然信じられなかった。

「怖かったの、私。あのまま卒業して就職して、ずっと腐れ縁みたいに一緒に居るのかなって思ったら、その後の人生が。
このままずっと、告白とか結婚とかプロポーズとか、そんな事を期待して振り回されるぐらいなら、自分で人生切り開こうって。」
十数年振りに話したあいつは、全然変わっていなかった。
相変わらず酒が強くて、自分を持っていて。

それにしても、まさか本当に夢叶えちゃうなんてな……
食べ物の好みが同じでつるんでいた奴が、まさか甘党だったなんて、当時は信じられなかった。
いきなり『菓子職人になる』なんて、なんかの当て付けかと思ったけれど……
昨晩あいつが笑って寄越した包み紙には、あいつのイニシャルを模したロゴがデザインされていた。
「一応、食べてけるくらいには繁盛してるのよ」
なんて笑っていたけれど……
実際は「食べてける」なんてもんじゃなく、行列が出来る程人気な店だって事くらい知っている。
会わなかった十数年間のあいつの努力を思いながら包みを開けると、入っていたのはチョコレートボンボンだった。
昨年何かの賞を取ってTVでも話題になってたやつだ。
「“明日の朝ごはんに食べて”って……嫌がらせかよ」
二日酔いの日に、酒の入ったチョコレート。しかも奴は俺が甘いものが苦手な事を知っている筈だ。
いや、もうそんな事、覚えてないか……
そう思いながら一粒取り出し、銀紙を剥がして口に入れた。
外側のチョコレートをかじると、シャクっとした食感と共に、トロリとブランデーが溢れ出た。鼻に抜ける香り。
チカチカする頭を押さえながら食べたチョコレートボンボンは、やっぱり甘くて、なんだかとてもホロ苦かった。


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