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TWWTさん

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世界禁酒計画

18/01/03 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 TWWT 閲覧数:391

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 某国某所、世界中の権力者たちが一堂に会する集まりが催されていた。もっとも、彼らの正体は世間には知られていないが、その実力は絶大で、各国の大統領すら彼らにしてみれば、即座に交代できる看板のようなものに過ぎない。そんな怖いものなどない権力者たちは、皆一様に疲れ切っていた。
「分かった。やむを得んな。世界の一般市民に関しては、酒を飲ませることは止めるという方針を進めていく。結局酒席や酔漢がいなくなれば、世の中は飛躍的に良くなる、と結論するしかあるまい」
 ボロボロになった権力者の一人が、血だらけになった身をソファーに沈め直してぼそりと呟いた。同じような悲惨な状態にある十人ほどの仲間から異論は出ることはなかった。何故なら、今まで激論を交わしていた数十名は、既に口が利ける状態ではなくなっていたからだ。鯨酔を日常的にしているような連中が大挙する中、この提案が出たことで大乱闘が起こり、結果はこの様である。再起不能者数十名、うち死者も数名。権力がバックになければもみ消すのも難しい大惨事である。元アマボクシング世界チャンピオンの拳が泥酔者の頭蓋骨を打ち砕いたという重大事は、間違っても良くあることではない。
「記憶がない、と言い訳できる状況ではありませんからな、お互い。やはり酒は体に悪いだけでなく戦争をも引き起こす」
 別の紳士も、べっとりと血がついた靴のつま先を拭きつつ呟いた。ワインに悪い薬でも入っていたのかと疑ってはいるが、瓶もその中身の身元もはっきりしている以上、酒が悪いと考えざるを得ない、と、今まで自分で責任を取ることを一切しなかった彼は確信した。
「では、そのように致しましょう」
 と、泥酔を極めた末に口論相手の首の骨を五つもへし折った元レスラーが頷いた。二十件以上のDVをもみ消してきた彼だが、その度に相手や仲間や暴行に使った道具を槍玉にあげ潰してきた。今回もまた同じように動いたというわけだ。
 醜悪極まる、と形容できる騒動の責任を、世界中の市民は取らされることになった。まず、新年会や忘年会の類が無根拠にバッシングを受ける事態となり、次いで居酒屋が叩かれ出した。酒を発端に起こった騒動や犯罪にも、不自然な無罪判決が続き、急に出世した裁判官たちが、事の責任を酒になすり付け始めた。結果、酒悪玉論はマスメディアを支配するようになっていった。

「これではダメです。反発が大き過ぎます。各国民の不満はいよいよ高まり、規制できないインターネット上を中心に、怒りが渦を巻いているようです」
 とんでもない乱痴気的騒動を経ても、裏の権力者たちを見限らなかった数少ない部下の一人が報告してきた。
「では、どうすればいいのか。メンバーも減ってしまったことだし、これ以上しくじると、表の連中が造反しかねん」
 悲鳴にも似たある権力者の声に、忠実な部下は少し考えてから、「私はまったくお酒は飲みませんが」と前置きした上で応じた。
「一つ方法がないこともありません。ただ、巨費を投じなければなりませんが」
「いい手があるなら是非ともやってくれ。金ならいくらでもあるのだ。しかし時間はない。我々を直接支持する民衆はいないのだからな」
 と、権力者たちが脅したこともあって、三年後にはその試みは実現した。しかし、そのことに民衆は気付かない。知っているのは一部の酒造メーカーの上層部と権力者たちぐらいである。日本においても忘年会に新年会、春のお花見と、酒席は止むことなく行われた。しかし、禁酒計画は成就しつつあった。
 何故なら、一般市民が飲んでいるものは酒とは銘打たれているがアルコールは一切入っていなかったからだ。アルコールの代わりに酔った気になる別の物質を混入して売り出していったのだ。有害物質を解毒する必要がないだけに後に残ったりすることはないが、巨額かつ長期間の研究で味を完璧に整えているので露見する心配はなかった。
「これで、酒に酔った人というのはいなくなりますよ。何しろ本物のお酒を飲んでいないのですから……」
 そう胸を張る計画者だったが、事態は改善するどころか悪化した。飲んでいて気分も悪くならない、明日以降にも響かないとなれば、多くの酒好きたちはさらにたくさんの酒を飲み、質の悪い酔漢も増え続けていくのも自明だったが、酒を飲まない彼は、そのことに気付かなかったのである。




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