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徒然さん

ツレヅレと申します。 文章の裏側に隠した意図が伝えられる様になりたい。

性別 男性
将来の夢 孫の顔を見て死ぬこと 注:非リア
座右の銘 まぁ。

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今年も君と、これからも貴方と

18/01/01 コンテスト(テーマ):第121回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 徒然 閲覧数:296

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「うっわ人すっごい…こんないるんだ。」
夜11時52分、俺と加奈子は神宮の境内に到着した。
近くの駐車場は全部満車で、仕方なく若干遠くの駐車場に停めた事からいくらか予想はついたが、境内は札幌駅の改札前に劣らないくらいの人口密度を誇っていた。
予習が甘かった反省点はあるが年越しを車内で迎えなかったから良しとしよう。
隣に目をやると加奈子は口をぽかんと開けながらその人の多さと灯りの煌めきに目を奪われていた。俺と違い初詣は経験あるが、この規模の神社は初めてのようだ。地元の小さな神社とは全く様子も異なるのだろう。
「ほらほら行きますよー立ち止まるのはおやめくださいねぇ。」
「うわわ!?わかったから!」
背中を両手で押すと加奈子の小さな身体は冗談みたいに軽い力でも動き出した。どんだけ浮ついた気持ちなのだろうと思い少しだけ笑えた。
5歩くらい歩かされた後に加奈子は自立歩行を始めたので、後ろではなく隣に立ってそっと手に触れた。
察した加奈子の細い指が指の間に絡まる。離れないように俺は繋ぎ止める。
凍える夜で手は冷え切っていたが、握りしめているうちにお互いを暖めるためにほんのり熱を帯びてきた。
まだ視界に入ってこないが、除夜の鐘が暗夜に響く。一定のリズムとは表現出来ないが大体定期的に。ぐわんぐわんと空気を揺らす鐘の音が今年の終わりを告げている。
2人は境内を見渡しながら奥へと進む。田舎者が都会に出てきたばかりのように、慣れない景色を必死に貪った。若い男女の姿が多く目につく。俺たちもその一部である事に違いはないのだけれど。
今年は幸せな年だった。こうして加奈子に会えて、終わるその瞬間まで一緒にいられるのだ。
腕時計に目をやると長針は11と12のちょうど間あたりを指していた。もうすぐ今年も終わる。
「カナ、58分だ。」
「む。もうそんな時間?どうしよ、年越しの瞬間ジャンプしよっかな。」
「そんなベタな事する?背も相まって子供だと思われるよ。」
「高2はまだまだ子供ですー!あと背の事は禁句だと!何度言えば!!」
悩んだり怒ったりコロッコロ変わる表情と、25cmも身長差があるせいで完全に見上げながら話すこの感じはどうしても小動物に見えて愛くるしい。何度イタズラしてもおちょくっても飽きない。本当に不貞腐れてしまうと甘い物を買う羽目になるからラインの見極めは必要だから気は抜けない。
「あーもう30秒くらいかな?周りも時計とか携帯見だしてるね。」
「え、早。どうしよどうしよ。何か案ある?」
「うー……あ、うん。今思いついた。やってみていいか許可は欲し」
甘酒片手にした若者集団が大声を張り上げて10からカウントダウンを始めた。9、8、7と時は進む。普段なら馬鹿共めと蔑むがこの瞬間ばかりは許される。彼らの周りははしゃげる若さに笑みを作っている。
「もう越しちゃう!よろしい、許可する。わかんないけど。」
3!
「ならお言葉に甘えまして。」
2!
繋いだ左手はそのままに右手で腰を引き寄せる。油断していた加奈子の体は俺の胸元に飛び込んでくる。
1ィ!!
少し膝を曲げ目線を落とす。加奈子のおでこが前に見える辺りで止まり、顎を右手で引き上げる。
加奈子は目を丸くしている。何されるかもうわかっただろう。
新っ年!!イェェェェェェイ!!!
若者達の奇声と、タイミングを見計らった鐘の音が交わりながら空へと舞い上がる。新しい年へ切り替わったのだ。

加奈子の目は閉じられていた。こうする時は自然に目を瞑るのって可愛い。
少しの間加奈子の表情を目に焼き付けて、名残惜しいけど唇の柔らかい感覚とお別れした。
後ろに並んでいた女性が両手で顔を覆い隠しているのが視界の端に見て取れる。目が指の隙間からしっかり漏れてる。
唇が離れて加奈子は目を開ける。
おぉ、耳めっちゃ赤くなってる。
口が小さくパクパク動いてる。多分何を言えばいいか混乱して言葉が詰まってるんだろう。俺は先手を打って加奈子の口を右手で塞いだ。ついでだから空いた人差し指と親指で鼻を摘む。
鼻を摘まれた途端それだけはさせるかと首を振り抵抗される。いつもなら頭押さえて抵抗も許さないけど今は左手空いてないから逃がそう。
「もう神様目の前なので大声は出しちゃいけません。」
「まだ何も言ってないし!そ、それより神様の前で何してるの!?」
「若えなって笑ってくれるよきっと。あと許してもらえたし。」
最早赤いのは耳だけではない。鼻の先まで顔が真っ赤。可愛い。
「だ、だって何するかまでは教えてもらって」
「はい着きましたお祈りの時間ですよー。」
「…〜〜〜!!」
繋いでる手を加奈子なりに力一杯握りしめたようだが気持ちいい指圧程度の圧力しかかかってこない。反抗に気づかないフリをして平静を装い手を離すと、行き場のない怒りは俺の背中に暴力となって訪れた。ちょっと痛い。
無視して姿勢を正すと加奈子も続いて正した。こうしてしまえば後は参拝するだけだ。
色々意地悪もしてしまうけど、好きな気持ちに偽りはない。祈る事は今日初詣に行くと決まった時から決めている。
思いを乗せてニ礼して、二拍手して、拝む。

今年も加奈子といられますように。

「…ほい、行こか。」
手を引いて参拝列から退く。加奈子は顔の赤さは引いていたが耳はまだ赤みを帯びていた。
「……何てお祈りした?」
「今年も加奈子といられますように。」
無言。聞いてきたくせに。
と、思ったら急に立ち止まり、俺の顔をジッと見上げてきた。
「私はこれからもずっとにいられますようにだから、わ、私の勝ちだから!」
早歩きで加奈子が逃げていく。突然の攻勢に出足が遅れてしまった。
…恥ずかしい。
たしかに、負けた。
加奈子は俺より思ってくれていたようだ。申し訳ない。
それでも、これからも一緒にいられるなら、思いに応えられる時間も沢山あるだろう。

とりあえず、あのウサギを捕まえてお仕置きしよう。

逃げる小さな人影を追って、俺は走り出した。


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