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yuriさん

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つながる想い

17/12/30 コンテスト(テーマ):第121回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 yuri 閲覧数:327

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 バンッと机を叩く音が、会議室に響いた。
「これが、今この世の中には必要なんじゃ!」
 近藤功夫は重たい腹を揺すって熱っぽい眼差しを社員に向ける。
「しかし、社長。それなりにコストもかかりますし。それに第一、こんなことに何の意味があるんですか?」
 近藤の右腕、山下が険しい表情で眼鏡を持ち上げる。他の社員達も同様に、難しい顔で黙りこくってしまった。
「意味はーー」
 一人、立ち上がった近藤は、決心したようにもう一度大きく息を吸った。
「意味はあるんじゃ! 大量生産が主流の今、このままだとわしらの商品は確実に廃れる。じゃあ、何が出来る? 最後に物を言うのは安さなんてものじゃない。心じゃ。どれだけ作った者の心が見えるかじゃ。どんなに小さなことだとしても、わしらの心はきっと誰かに届く」
 会議室がシンと静まりかえる。社員の顔を見回した近藤が諦めたように、ストンと腰を下ろした。しかしその瞬間、どこからともなく声がした。
 やりましょう、と。


 二七歳、私には何もなかった。
「俺、何かに縛られて生きていくのとか無理なんだよねー。自由人っていうの? だから彼女とか、結婚とか、ましてや子どもとかに自分の人生縛られたくないんだ。いつでも自由に生きていきたいっていうか」
 天使のように整った顔で、彼はそう微笑んだ。
「うん、そうだよね」
 私は泣き出しそうな心を抑えて、曖昧に笑った。
 彼と二年、真面目に付き合ってきたつもりだった。けれど、そんな私でも、彼にとっては「縛り」なのだろうか? いや、ただ単に、彼が自由な精神を持ちすぎて、私が重い執着を持ちすぎただけなのかもしれない。
 私は、大きな野望もなく大学に進学した。それから四年後、たまたま就活で引っかかった会社に就職した。
そんな私には何にもなくて、自分以外のものに執着しなければ、生きている意味がすぐ分からなくなってしまった。
窓から見上げた空にはうろこ雲が流れている。かれこれ半日、死んだ魚のようにベッドから空を見上げていた。
ピーンポーン。間延びした音が響く。
重い腰を持ち上げて、私は玄関の扉を開けた。
いつものよく日焼けした宅配のお兄ちゃんが持ってきたのは、これもまたいつもの段ボール。判を押して、受け取ったそれはずっしりと確実に重さを持っていて、私は小さく溜息を吐いた。
 大学を出たと同時に、私は長崎から上京した。その時「もう、援助はせんからな」と厳しい表情で告げる父はそれでも少し、寂しそうに見えた。
 段ボールを開けると、溢れそうな野菜や日用品、それに地元のお菓子なんかが入っていた。
 この段ボールの重さは、両親の思い。ごめんなさい、お父さん、お母さん。私には到底背負えない。
 ふと、今日は何曜日だろうか? と疑問に思って、壁に掛けられたカレンダーを見やる。
会社に行かなくなってからというもの、曜日感覚がなくなった。
 彼と別れて、私は無心で働いた。今まで苦痛でしかなかった仕事を、初めて楽しいと感じた。仕事に生きても良いかもしれない、とそんなことを思った矢先でのリストラだった。
 一気に二つの私の中心部を失って、途端に私は空っぽの自分と向き合わなくてはならなくなった。もう、嫌だ。 

 気がつくと、日が暮れていた。自分一人のために食事を用意するのも虚しくて、段ボールの中からよく知った地元、長崎のお菓子を取り出した。
 幼い頃、母がよく買ってきてくれた近藤製菓のどら焼き。甘い物はそんなに好きじゃなかった。けれど、どうしてかこのお菓子には飛びついていた記憶がある。
 口に入れると、程よい甘さが広がった。

そして、もう限界水域に達していた感情が、堰を切ったように流れ出した。
何かの衝撃で感情が爆発するというのはよく聞く話で懐かしいその味が途端に、私の心を弱くした。
静かに、ほろりと涙が流れる。私は一体何なんだろう?
 その時。ふと、机の上に転がっているどら焼きの空が目に入った。パッケージの内側には小さな文字が書かれている。不思議に思って、私は中を覗いた。そこにはーー
「アスパラ食べて、明日パラダイス!」
 

くだらなかった。くだらねえ、と言いながら私は小さく笑った。 
そうだ、そうだった。近藤製菓のどら焼きには必ず一つ、ダジャレが書かれていた。パッケージの内側に小さく書かれているだけから、多くの人は気づかない。けれど、私は幼い頃から知っていた。だから、このお菓子が大好きだったのだ。
一人笑って、私は小さく呟いた。

もう、少し。もう少しだけ。

私は窓の外に広がる、大きな空を見上げた。


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