1. トップページ
  2. 紅茶は好きですか?

yuriさん

なぜか三連投稿されている作品の消去方法が分からないので、すいませんそのままです

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

紅茶は好きですか?

17/12/30 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 yuri 閲覧数:284

この作品を評価する

 今日もあの子は、紅茶を運んでくる。
「先輩、どうぞ」
 そう言って微笑んだ彼女の髪は適度に艶があり、薄い化粧を施した顔は瑞々しさを感じさせた。
「ありがとう」
 私は出来るだけ穏やかで、知的な先輩に見えるよう、ゆっくりと彼女に礼を言い、それを受け取る。
 彼女が他の机へ向かうと、私は手元に置かれた、やや赤い黒い液体を黙って見つめた。
 工場の事務という、男がほとんどのこの職場で、今まで仕事の合間に飲まれるのはコーヒーか煎茶だけだった。けれど、彼女が来てからというもの、すっかり彼女が好む可愛らしいパッケージの紅茶が主流になり、部屋にはいつも腐敗した茶葉の匂いが立ちこめる。私は紅茶が嫌いだ。
「田中さん、紅茶どうぞ。あれ、ひょっとして眼鏡変えられました? 素敵ですね」
 彼女の伸びやかな声が部屋に響く。いつもは仏頂面の田中さんもどこか嬉しそうだ。
 彼女は今年の春、この会社へ入社してきた。二十三歳、若くて可愛い。おまけに利発そうな彼女の表情に男どもは一瞬にして、落ちた。それまでは、唯一の女性社員だった私を綺麗だの何だの持ち上げていた彼らが、彼女の前になった途端、手のひらを返したように私の扱いを変えた。「菊池さんは確かに綺麗だけど、中々の年代物だから」なんて言って苦笑する。私は「それ、ヴィンテージって言うんですよ。最近は高値で取引されるんですから」なんて冗談を言ってみたけれど、笑えなかった。曲がりなりにも約十年、この職場で紅一点としてやってきた身としてはかなり傷ついた。
 しかし、私は傷つくのと同時にある疑問を浮かべた。
 あの子って、そんなに良い?
 確かに新人の彼女は若いかもしれない、ちょっとくらい可愛いかもしれない、だから何だ。私が若かった頃はもっと綺麗だった自信がある。腰だってもっとくびれていた。
 そう思うと、私の心を覆っていた厚い霧が晴れるような気がした。彼女なんてどうってことない。
 そう思えるようになってから、彼女を見ても傷つかなくなった。優しい先輩を演じながら、陰でこっそり笑っていれば私の心は平和を保たれた。
「先輩! 今度ご飯行きましょうよ。先輩の彼氏の話とか聞いてみたいなぁ! それに、私の彼の事も聞いてほしくってーー」
 彼女は私によく懐いた。うん、行こうね、と笑いながらごまかし続けて、約半年。彼女が私を誘う度、私は笑いを堪えるのに必死だ。何も知らずに幸せそうね。私にどう思われているのかなんてこれっぽちも知らないんでしょう? そう心の中で呟きながらこっそり笑うのが快感で仕方なかった。男たちはあなたのことを気が利くとか、聡明っていうけれど、私、あなたより、一枚上手なのよ。
 初めは、使い古した日記帳に書いていた。今日、彼女のどんな言動が笑えたか。けれど、それでは満足しきれず、私は誰かにこの快感を共有したくなった。そして、始めたのがブログだ。簡単なもので、十分もあればページを開設して、書き始めることが出来た。
『今日は彼女から彼氏との将来について相談。いや、どんだけ私のこと信頼してんだよ笑』
『本日はご丁寧に、いつもの紅茶を大きな缶でくださいました。いりませーん』
 短い投稿を続けていると、なぜか私のブログの登録読者数は増えていき、またそれが快感だった。みんなが私に共感してくれている。
 その日も癖のようにサイトにログインを済ませて書き込みを始める。最近は、勤務中もやめられなくて、昼休憩はほとんど書き込みに時間を当ててしまう。しかし、キーボードを打ち始めたそのとき、ブログにコメントが付いた。なんとなくそれを見て、私はん? と首を傾げた。
「こちらもご自身で書かれているんですか? おもしろいですね」
 文の最後に貼り付けられたURLをクリックする。すると、こちらもブログが開いた。特に変わったところのない、普通のブログ。しかし、人気のブログのようだ。読者登録数は私の倍以上。私は最新の記事をクリックする。そして、現れたその文章に私は目を見張った。
『紅茶いりませーんって知ってまーす。だからあげたのに。笑える。自分の方が上手だっていう優越感たっぷりな感じがまたイタすぎ』
 これってーー
 肌がぞわっと粟立つ。とっさにデスクの間に彼女の姿を探す。すると、背後から静かな声が響いた。 

「先輩、紅茶どうですか?」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン