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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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スジコンの味

17/12/27 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:527

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 お好み焼き屋ののれんをくぐって二人の男女が店にはいってきた。
「いらっしゃいませ」
 鉄板がふたつならんだたけの、せまい店内から白髪を後ろにたばねた女将の明るい声がむかえた。
 客の一人は五十がらみの男で、コートに包んだからだはいかつく、目つきもまた鋭かった。なにより、左頬に長々とはしった傷跡が、いっそう凄みをましていた。
「いつものやつ頼むよ。こちらの彼女は――」
 男のうながしに、女はふてくされたように、
「なんでもいいわよ」
「なにかきめろよ。女将さんが困ってるじゃないか」
 女はそっぽをむいた。その視線の先が、壁の品書きをとらえた。
「スジコン」
「さすがだな。この店のスジコンは、天下一品だぜ」
 女将はかきまぜた粉を熱く焼けた鉄板にながしこんだ。卵と粉がキャベツとからみあう。そのうえから豚肉が一枚、二枚、三枚、おまけよとばかりもう一枚のせられた。
 男はコップの水をぐいとのんで、
「ちよっとはおちついたか」
 彼女は口をきこうともしない。
 テコをさばきつづける女将をみあげて、彼はいった。
「この子、たちのわるい男とつきあっていて、いまその男と話しをつけて、別れさせてきたんだ」
「あなたの身分を明かしたの」
「いやいや。刑事だなんていったら、警戒されて、まともな話はできない」
「たちのわるいって――」
「女に売春させるようなやつさ」
「ふうん」
 彼女がいきなり、
「タツキはそんな男じゃねーよ」
 いまにも男にかみつきそうな剣幕になった。
 女将さんがなだめるように、
「お水、のみなさい」
 彼女はまたなにかをいいかけたが、思い直したようにコップをつかんだ。
「彼女ほんとは、気立ての優しい子なんだ。あんな男とめぐりあったばかりに、気性がかわってしまった。しかし、いまならまだ、なんとかなる。なにしろ若いんだから」
「相手の男はあっさり了承したのかしら」
「いちおうはね」
「これからが大変だわ」
「そうなんだ。どうせあの男のことだ。またこの子にいいよってくることは目に見えている」
 お好み焼きを裏返して、焼き具合をたしかめながら女将は、
「あなたじしんが、かわらなきゃだめよ。冷静に、相手の男がどんな人間かを、みきわめることが大切だわ」
 と、鉄板ごしに彼女の顔をじっとみつめた。
 それが気にいらなかったのか彼女が、いきなり手にしたコップを女将にむかって投げつけた。コップは顔をそれてうしろの棚にはねかえった。
「よせ、なにをするんだ」
 声をあらげる彼に、彼女はまなじりをつりあげて、
「婆あ、えらそうな口をたたくんじゃないよ、何様だと思ってるんだ。あたしのことなんか、なにもわかってないくせして」
 女将は、顔にかかった水を手でふいてから、
「えらそうなことをいうつもりはないわ。でも、あなたは彼に感謝しなくちゃ。あなたのことを、心から心配してくれているんだから。この人のいうとおり、あなたはまだまだ若いのよ、いくらでもかわるチャンスはあるわ。それを信じなさい」
「うるさい」
 彼女はほとんど絶叫にちかい声をあげた。
 女将は、鉄板の上に目をおとした。
「あなたのスジコン、焼けたわ。どうぞ」
 すじ肉と角切りこんにゃくが山ともられたお好み焼きが、彼女のまえに押し出された。
「ひゃあ、うまそう」
 横から彼がいう。
 彼女はまだそれからも、むすっとした顔をうつむけたまま、頑なにだまりこんでいる。が、鼻の下からたちのぼってくるスジコンの匂いに空腹が刺激されたとみえ、目の前のテコに手をのばした。そのテコで、切りとったお好み焼きを、口にはこぶと、熱さのあまり唇を忙しく開け閉めしだした。
「どうだ、うまいだろ」
 彼女はこのとき、はじめて素直にうなずいた。
「あたしまえに、お好み焼き屋をやりたいと思ったことがあったの。こどものころ、学校のかえりに友達といっしょに、よくお好み焼きをたべたことがあって、そのときたべたお好み焼きと店の雰囲気がいつまでも記憶にのこっていたの」
「それじゃ、この店でやってみない」
 女将の言葉に、彼女はおどろいたように目をみはった。
「え、だって」
「あたしもこの歳でしょ。身寄りはないし。だれもついでくれるものがないから、そのうちたたむつもりでいたところよ」
 彼もずいぶん乗り気になって、
「いいじゃないか。せっかく女将さんがああいってるんだ。店の切り盛りと焼き方のノウハウをおしえてもらえば」
「だって、あたしみたいなあばずれを――」
 おかみさんは笑って、彼の顔をみた。
「おしえてあげれば、わたしのこと」
 すると彼もまた、笑みをうかべて、
「この女将さん、若いころは、かみそりマキとよばれて、それはこわいおねえさんだったんだよ」
 そういって隣の彼女に顔をむけると、頬の傷を指のさきでなぞってみせた。


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このストーリーに関するコメント

18/01/22 木野 道々草

拝読しました。W・アーム・スープレックスさんが書かれるキャラクターに、どこか惹かれます。今回も、登場人物のそれぞれの性格や、彼ら彼女たちが集まって作り出す人情味ある雰囲気に、いいなあと感じ、私ものれんをくぐってその世界に入ってみたくなりました。また作品を読んで、スジコンを初めて知りました。なぜ「スジコン」と呼ぶのかすぐには分かりませんでしたが、後でスジ肉+コンニャクでスジコンだと気づきました。あばずれの語源(阿波+擦れ)となんだか似ていると思いました。

(実はこのコメントの前に別のコメントを投稿しました。その際、大変失礼なことに敬称が抜けていました。本当に申し訳ありません。そのコメントは削除依頼しました)

18/01/23 W・アーム・スープレックス

スジコン、一度食べると忘れられない食感があり、機会があればぜひ味わってみてください。あばずれの語源、はじめて知りました。「なんだか似ている」とうけとめていただいて、作品にひろがりができたような気がしました。
私じしん、こういった人々がおりなす物語が好きで、自分もまたのれんをくぐってみたい一人です。
頂いたコメントに、木野道々草さんの真摯な心情がかんじられました。ありがとうございました。

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