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小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

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あばずれ女と甲斐性無し男

17/12/27 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:0件 小峰綾子 閲覧数:561

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その昔、ある人里離れた村で代々受け継いできた神社を守るため、一組の男女が選ばれようとしていた。選ばれた男女は夫婦となり、神社の管理や儀式や催事の一切を取り仕切ることになる。男女を選ぶのは村の中で「長老」と呼ばれる老婆で、選出方法は知られていない。夫婦が役割を全うするのは12年とされている。なぜ12年なのかは諸説あるが干支が一回りする年数だからではないかという説が有力だ。

定められた朝に長老が和紙に墨でしたためた名前は

「正吉 華絵」

と言うものだった。

今年20歳となる正吉は内心色めき立った。華絵は2軒先に住む2歳下の娘で幼い頃から面倒を見てきた。日に日に美しくなる華絵を見て湧き上がる気持ちが愛なのか兄としての情なのかは分からないが、いつか二人で共に暮らすことが叶うとしたら…という考えは正吉の頭を去らなかった。

しかし懸念がある。華絵は自分と結婚などするだろうか。

華絵は古臭い風習を毛嫌いし反発していた。この村に生まれし者の定めとして風習に従う村人が多い中、華絵だけは「そんな馬鹿々々しいことには従わない」と言い続けてきた。大人になった華絵は少し離れた村まで夜な夜な出かけることも多く、男と遊んでいるのではないかと噂されている。そんな彼女を村の人々は「あばずれ華絵」と呼ぶ。

予想通り華絵は激しく抵抗した。

「結婚相手ぐらい自分で選ぶ!正吉兄にも失礼だろ!うちは従わない!」

と、両親の前で怒鳴っている。両親は気の毒だ。万が一長老の言いつけをはねつけることなどあれば自分たちまで居辛くなるのは目に見えている。

「失礼する」
華絵の家にそう言って入ってきた正吉は華絵の両親に、少しの間華絵と二人で話をしたい、と言い、席を外すように促した。

正吉は、幼いころより華絵を慕っていたこと、夫婦になるならお前しかいないと思っている、長老に言われなくても時がくれば結婚の申し出をするつもりでいた、しきたりに関する業務の一切は自分が行う、お互いに気が合う男女として一緒になってくれないか。そう説得した。

華絵はしばらく押し黙った後に「正吉兄がそんな風に思ってくれていたなんて、こんな形で聞きたくなかった」と言って静かに泣くばかりだった。

次の日、夜が明けると華絵の姿は消えていて、。枕元に手紙が置かれていた。
「父さん母さん、あばずれ娘でごめんなさい。皆様、全ては私のわがままです。父と母、正吉兄は悪くありません。正吉兄へ。にいのことは一生忘れません。ありがとう。ごめんなさい」

長老は何事もなかったかのように新たな相手を選びだした。今年20歳になる、美人とはいいがたいがよく気の利く愛嬌のある娘だった。

しかし正吉は首を縦に振らない。「一度振られた身であるので、辞退いたします。」と、村のものがどんなに説得しても折れなかった。

正吉が村から姿を消したのはひと月が立った頃だった。正吉のことを村の人々は「甲斐性なし男」と言いあい、正吉の実家も「甲斐性なしの息子の家」として罵られる憂き目にあった。

____さて、その後正吉と華絵は東京で再開し、晴れて夫婦となった。一方で二人の生まれ故郷である村には原因不明の伝染病が蔓延し、壊滅状態となった。

と、いうのが家系図制作会社から届いた資料に私の妄想を付け加えて作り上げた物語だ。自分のルーツを調べて家系図を作ってくれるという業者があると聞いて、興味本位で申し込んでみた。最初は簡易版の、自分の苗字の由来を調べてくれるコースを頼んだのだが、ルーツが山形の山奥の、今は無くなった村だと聞いて家族の中にざわめきが走った。父も祖母も他の親戚たちも皆、自分たちの家系はずっと東京で暮らしていると思っていたのだ。
さらなる詳しい経過を辿るにはさらに上のプランに入る必要があったのだが、寝耳に水の山形の山奥の村から始まったストーリーに皆興味をもったのだ。
そして家族内でお金を出し合って調べてもらった結果が先ほどのようなストーリーであった。華絵と正吉は結婚し3人の子供に恵まれた。二人の間の末の子が、父から遡って8代前の男子だということだった。「あばずれ女と甲斐性無し男」と呼ばれ故郷の村で笑い者にされた2人は東京で幸せに暮らし、村は伝染病でやられた。
ほぼ村とは絶縁状態であったにも関わらず山形まで道をたどることができたのは、正吉が自分と華絵の生家とはひっそりと手紙のやり取りをしていたことと、伝染病から逃れて近隣の町村に移り住んだ元住民が、「村を出て行った二人だけは生き延びた」と、伝染病の怖さとともに代々語り継いでいたからである。
ほんの思い付きで調べた自分のルーツに思いもよらない物語が潜んでいた。二人が村を出たからこそ今の私が生きている。あばずれ女と甲斐性無し男に感謝しないではいられない。


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