1. トップページ
  2. あばずれと久助――沖田総司の煎餅譚

クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

投稿済みの作品

3

あばずれと久助――沖田総司の煎餅譚

17/12/23 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:4件 クナリ 閲覧数:650

この作品を評価する

 新撰組の隊士が、不覚を取ったという。
 夜の警らで、闇に乗じた曲者に、影腹を刺された。一緒にいた別の隊士が犯人を追ったが、逃げられた。
 凶器には毒が塗ってあり、件の隊士は不覚を責められる間もなく他界した。
 それから三人、続け様に同じ手口で襲われた。こちらは手当てが早く死にはしなかったが、組の面目は大いに潰されている。



 新撰組一番隊隊長の沖田総司は、子供が遊ぶような玩具で遊び、子供が食べるようなものでも好んで食う。
 沖田が最近通い始めた店のひとつに、篠屋という米菓店があった。
 ある日、沖田がそこへ「やあ」と顔を出し、店員にあれこれと注文を入れた。
「へえ、ただ今。久助、包んでくれ」
「ああい」
 店主に呼ばれて間の抜けた返事をしたのは、別の店員である。
「キュウスケさんというんですか」
 沖田が聞くと、店主がひらひらと平手を振る。
「いえ、本名は違うんですがね、粗忽者なもんで。うちらでは、壊れ物や出来損ないの煎餅を久助と呼ぶもんですから」
「へえ」
「煎餅職人なんて渡世人ばかりで、久助もそうなんですが、あいつの羨ましいところはね」
「はあ」
 沖田が相づちを打つと、
「お前さん、まだ仕事かい」
 と見知らぬ女が店先から久助に声をかけた。店主が女をとがめる。
「あんたさん、いくら女房だからって仕事中にねえ」
「いいじゃないさ」
「あつかましいことだねえ。おい久助、今日はもういいよ。……旦那、これですよ。久助の女房は、あばずれだが器量よしだ」
 久助は帰り支度の最中に、沖田が見ているだけで二度柱にぶつかり、三度何かにつまづいた。
 女房はゲタゲタと笑っている。

 屯所に戻ると、沖田はすぐに土方に呼び出された。
「総司。この間やられた隊士どもだがな、凶器が分からねえ。刀提げてるようじゃなかったって言うしな」
「仕込み杖で、間近から影腹は突けませんしねえ」
「暗器の類いってわけだ。気を付けて張れよ、例の煎餅屋は」
「山崎さんの調べじゃ、久助という職人が十中八九クロです。でもそれです、凶器がない。久助さんのいない間に、家捜しまでしたみたいなんですけど」
「包丁くらいあるだろ?」
「山崎さんが張らせた処、闇討ちの夜は、久助さんも奥さんも出掛けてて。忍び込んでみたら包丁は家にあったというんです」
「充分怪しいがな。どこに行ってたんだ、二人は」
「煎餅屋の夜の仕込みだとか。久助さんがよく忘れ物するんで、奥方が届けに行くとかで、二人共」

 夜。
 月は半分雲に隠れていた。
「おや久助さん」
「ああれえ、沖田さん。警らですか」
 篠屋のすぐ表で、暗い中を総司と久助が向かい合っていた。周囲は深く寝静まっている。
「アタシも仕事で。お互い、大変ですねえ」
「全くです。では」
「ああそうです、沖田さん、少しお待ちを」
「いえ」
 沖田は抜き打ちで、背面を斬った。
「ああッ!」
「あ!」
 女と久助の声が同時に上がる。沖田は振り向き、倒れている久助の女房の傍らから、手のひら大の鉄器を取り上げた。
「煎餅の型ですね。金物を組み合わせた、鋏のような構造だ。先日大陸から伝わったという九連環みたいですね。少し組み替えていじると、ここが束と刃になる。玩具なら面白いのに」
 久助は女房を助け起こした。沖田も手加減したので、傷はごく浅い。
「これなら、持っていても煎餅の道具で通る。久助さんが店にいても、奥方が刺せる。見とがめられたら、久助さんに忘れ物を持って行く途中ということにすればいい。現行犯でさえなければね」
 久助が背中の方から何かを抜いた。長ドスである。
「あ、まともな武器は篠屋さんに隠してあったんですね」
「黙れッ。粗忽者を演じるのも今日までの」
 沖田の剣閃が、月明かりに光る間もなく二度走った。
 久助の両腕が断たれて落ちる。
 その悲鳴を合図に、伏せていた別の隊士らも飛び出てきた。
 久助、女房、捕縛。
「奥方、手当ては」
「いりません。斬らないンですか」
「もう捕まえてますし。この後、旦那さんとは別々になりますよ」
「……私は丁度ね、こんな小さな刃物使うせせこましい男は嫌になってた処なんですよ。捕まる方がせいせいする」
「へえ……」
 沖田は嘆息した。
 久助の方は腕を切られ縮こまっているというのに、この女は大して堪えてもいない。己か亭主のどちらかは、沖田の仲間を殺しているというのに。
 沖田はこの女のことは、始終不愉快だった。嬌はあるが、品がない。
 もしかしたら久助は、この女の野放図な熱に煽られて事に及んだのかもしれないとさえ思った。
 男の人生など、女一人でいくらでも変わる。
 明日は、最近評判になっている、かりん糖とやらでも食ってみようかと思いながら、沖田は屯所の土方の元へ足を向けた。
 近藤や土方に、早く会いたい。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/12/23 クナリ

この作品は実在の人物を題材にしていますが創作であり、、実際の人物・団体・出来事等には関係ありません。

九連環とは知恵の輪の原型のようなものです。

18/01/08 黒谷丹鵺

拝読いたしました。時代の空気感といいましょうか、緊迫した雰囲気と沖田の余裕のような軽妙さが噛み合って、ちょっとタイムスリップして捕物の一部始終を覗き見したような気にさせられました。うまいですねぇ!

18/01/21 木野 道々草

初めまして。拝読しました。それぞれのキャラクターの個性が生き生きして話が進み、読んでいてとても楽しかったです。以前から作品を拝読して、二千字内で鮮やかに話をまとめられる手腕に圧倒されていました。今回もただただ凄いと感じて、ついに思い切ってその感想をコメントさせていただきました。

18/01/21 クナリ

黒谷丹鵺さん>
世界観の中で実在の人物をキャラ付けするのはけっこう勇気がいりますが、割り切ってやってしまってますね(^^;)。
それに「現行犯」とか言わせていいのだろうか…とかッ…。
たとえ時代物でも、小説や漫画は創作と割り切ってるので、楽しんでいただければ嬉しいです〜。

木野 道々草さん>
コメントありがとうございます。
新撰組好きなので、どんどん頭の中で勝手にキャラクタ付けが進行するんですが、もうあまり気にせずに書いてしまっています(^^;)。
ほかの作品も読んでいただけたとは、光栄です。
掌編の書き方がようやく分かってきたような、まだまだ何も分かっていないような書き方ばかりですが、楽しんでいただけるものが提供できていれば嬉しいです。

ログイン