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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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いつか君も僕を想って

17/12/18 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:412

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 目覚ましが鳴る、より心臓何拍分勝ったか数えるのが僕の朝の習い性だった。
 リリ、今日は二十三。偶然か、今日は十一月の二十三日。「特別な朝になるのかもしれないね」読唇術の熟練者に読み解かれる想像をして赤面する。僕は何を言っているのだろう。寝間着のジャージを下ろす。そうだ、昨日の夜に選んだ下着はカルバンクラインのおろしたて。うん。今日は、自分にとってだけになっても、僕の選んだ特別な日。さぁ、お弁当を作ろう。制服のズボンに、縁起をかついで左足から。僕の利き足は左なんだって、一年の体育の授業で教わった。後ろから押されて咄嗟に出た方の足。今日の僕もそう。高橋さんに押されて、左足を出してみる。
「席が隣同士でお互いにお弁当を作ってきてください。それが私の考えたオリジナル授業です」月曜日の一時限目。出席番号一番の青山君から始まって、僕たち生徒が順番に授業内容を決められる時間。
「ここだけ男子同士なんだけどー」尾山君は挙手もせずにでっかい声で言った。「なぁ」と、続けて僕に同意を求めてきた。僕は何も言えなかったけど、ただ頷いてみせた。
「運が悪かったと思って諦めてください。男子の方が二人多いんだからしょうがないんです」
「あーあ、最悪ー」尾山君は椅子を後ろに傾けてギコギコさせながら言った。「なぁ」と、また僕の方を向いて同意を求めてきたので、僕はやっぱり頷くだけだった。
「僕は最高って思ったんだから、あの頷きはまずかったなぁ」
 エプロンは去年の誕生日に姉さんにプレゼントしてもらったアフタヌーンティーのストライプ柄。背中で結んだ蝶々は昨日まで僕の心に飼ってた蛹。
「まったくやってらんねーよ」
「うん」
「母さんに頼むかな」 
「でも、高橋さん、もしお母さんに頼んでそうだって思ったらおうちに電話するって言ってたけど」
「ちっ、じゃー、婆ちゃんに頼むか」
「一休さんじゃないんだから」
「でもマジでどーしよう、俺料理なんかできねーよ、ぜつぼー」
「じゃー、さ」
 まだ起きてこない家族に気を使う早朝六時前。それでも料理にラジオは僕の必要援軍なので。ヴォリュームをしぼって点ける。途端に流れてくるスピッツに、僕は指を鳴らして笑顔になる。サンキューDJ、空も飛べる。
「じゃー、僕が二つ作ろっか。僕、料理は趣味なんだ」
「マジ?」
「うん」
「いいのか、大変じゃない?」
「別に」
「じゃー頼む! たーすかったー」
 金曜日に尾山君から預かった空のお弁当箱。一粒のお米粒も残さずに、ミートボールのタレも綺麗にきっとお米か他のおかずでなすったんだな。僕の作ったお弁当も、綺麗な空っぽにしてもらえるだろうか。そしたら僕は、どんなに満たされるんだろうか。
「俺ホントに包丁も使えないし、なんも料理できねーから。そのつもりで、下手に作ってくれよな」
「うん。わかってるよ。ばれないようにやるから」
 僕のお弁当箱。尾山君が僕に作るお弁当。冷凍食品をゾロゾロと、卵焼きだけはせめて。彩りにプチトマトぐらいは添えてくれるだろうか。へたの緑も色のうちと残すのはナイステクニックだよ、尾山君。
 電子レンジが何度も鳴って、僕のお弁当箱は埋まっていく。ご飯はそのまま、お婆ちゃん子なところがあるから真ん中に梅干しかな。
「食べられないものある?」
「ああ、ほうれん草ダメなんだよ。幼稚園の頃ずっと居残りさせられた。どうしても喉を通ってくれないんだよな。入ってくるなってのどチンコがうるせーの」
「のどチンコ……」
「受けた?」
「あぁ、うん。面白い」
 尾山君は僕の苦手なものは訊ねてくれなかった。僕はどうしてもブロッコリーが苦手なんだ。のどチンコが入ってくるなってうるさいんだよ。だから、入れておくね。ブロッコリー。安心して、仕返しにほうれん草入れたりなんかしないから。
 先に僕のお弁当を完成させてから、尾山君のお弁当に取り掛かる。昨日仕込んでおいたレンコンと豚肉のミニハンバーグを冷蔵庫から出してフライパンで焼く。横でこれも冷蔵庫で寝かせておいた鶏のから揚げを揚げる。この世で一番美味しい食べ物はつまみ喰いで食べるから揚げだと、ラジオのネタで聴いたのを思い出す。そのとーり!!
 ゆで卵の黄色と、アスパラの緑。赤は茹でた人参。型抜きは使わずに包丁で花にする。ご飯はふりかけで三色にして俵おにぎり。果物は別のタッパーに。さて、いいじゃないか。
 僕は出来上がった二つのお弁当に蓋をする前に見比べる。これが今の、尾山君と僕だ。
 蓋をして、蓋をして、お箸を乗っけてバンダナで軽く包む。さぁ、みんなにばれないように、今日は尾山君と早めに待ち合わせてある。そこでお弁当を渡すんだ。
 左足から履いたスニーカー。左足から踏み出した玄関の外。冬の朝にも眩しい太陽を、僕は見つめた。冬の風が、目にしみて頬が冷たい。
 
  


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