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君形チトモさん

「きみがた チトモ」と読みます。 創作と着物と動画制作とCoCが趣味。 失恋する女の子と、王子様に手を差し伸べてもらえない女の子と、ヤンデレが好きです。 異類婚姻譚も好きです。 嫉妬とか劣等感のからんだ、ドロドロした恋愛話も好きです。 シェイクスピアで一番好きな戯曲は『オセロー』で、一番好きな登場人物は「マクベス夫人」。

性別 女性
将来の夢 ・自分の小説を本屋で平積みしてもらうこと ・媒体関係なく、自分の書いた物語をたくさんの人に読んでもらうこと
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未来を孕む弁当箱

17/12/18 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 君形チトモ 閲覧数:552

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 小学校には給食があるけど、子供用の量だから、教師である私たちにとっては足りない。いつもお腹が空いてしまう。残業したら夕食にもできるから、私は毎朝、少し大きめの弁当箱でお弁当を作る。
 といた卵をフライパンに落とせば、ジュウ、と音を立てる。ブロッコリーを必要な分だけ切って洗い、いらない部分を切り落として茹でる。焼けた卵を巻いて皿にのせた。ご飯をあたためていたレンジが、チン、と音を立てる。取り出して、少し冷ますために放置。卵焼きを弁当箱に入る大きさに切って、弁当箱に並べた。
 こうしてお弁当を作っていると、小学校は弁当箱のようだと思えてくる時がある。色も形も様々な子供たちが、学校という大きな箱の中でそれぞれ並んで授業を受けたり、遊んだり、話したり。子供たちが食べ物なら、私たち教師は何だろうか? 私は、包丁や菜箸などの、調理用具だと思う。子供たちを教室の机の前にそれぞれ並べて、あれこれ教える私たちはきっと、子供たちというまだ未熟な食材たちを、素晴らしい料理として変身させるために必要な存在なのだ。私は私が接する子供たちが、それぞれ素晴らしい人生を歩めるようにと願っている。
 何もしなくても誰もが良い未来に進めるのなら、それが一番。でもなかなかそうはいかない。法律も、暗黙の了解も、マナーも、社会の仕組みも、まだよく知らないことは罪ではない。でも、知らないことをそのままにするのは良くない。知っていれば回避できることがこの世には山ほど存在する。たとえば、世の中にはルールがあることだとか、ルールを守らない人はどうなるのかとか。だから、私たちが教えるのだ。あとで泣いてしまうことがないように、より良き人生を歩んでいけるように。子供たちが、大人になっても笑っていられるように。

 私の受け持つクラスには、登校拒否の佐山くんという子がいる。理由はわからない。毎週放課後、佐山くんのおうちを訪問して佐山くんのお母さんと話をしているけど、事態は停滞したままだ。今日はお母さんの了承を得て、佐山くんの部屋の扉の前まで来た。お母さんがいると話しにくいこともあるかもしれないから、私と佐山くんの二人だけで話をさせてほしい、と佐山くんのお母さんに頼んだのだ。
「こんにちは、佐山くん。先生お話ししたくてね、お母さんにお願いしたの。お母さん、佐山くんのこと心配してるだけだから、怒らないであげてね。単刀直入に言うけど、どうして学校に来ないのか……教えてくれないかな?」
 いじめられた? それとも嫌なことがあった? もしかして、先生が嫌? しばらく話しかけても、身じろぎの音さえ聞こえない。私では力不足だろうか。でもこのままではいけない。佐山くん自身のために。
「……佐山くんはこのまま学校に行かずに、どうするの? 中学にも行かないの? 高校にも? 一歩もお外に出ないで、お母さんに全部面倒見てもらう? それって、佐山くんはいいことだと思うかな?」
 問いかける。返事は来ない。それでもきっと聞いてくれていると思うから、続ける。
「学校に行ったり仕事をしたりっていうのは社会の暗黙の了解みたいなものだから、学校に行かなかったり仕事しなかったりする人は、ルールを守らない人って思われがちなの。だから何かあっても、ルールを守らなかったその人が悪いって、見捨てられちゃうんだ。先生は佐山くんに、そんな悲しい人になってほしくないな……」
 しかし佐山くんは一言も答えない。その後もあれこれ話しかけたけど返事はなく、私は落ち込みながら佐山くんのお母さんに結果とまた来る旨を告げ、帰路に着いた。
 やはり私ではダメなのかもしれない。でも、佐山くんは私の受け持ちのクラスの子だ。このまま不登校を続けていたら、佐山くんのためにならない。大人の引きこもりの半分は不登校になった経験持ちというデータがあるし、集団生活の場である学校にいないと社会性を身につけるのが難しいし、学歴によっては仕事に就くのも難しくなる。不登校でもうまくいく子もいるけど、全員ではない。佐山くんの未来のために、教師である私ができる限りサポートをしたい。
 学校が弁当箱なら子供は食べ物だ。教師は、調理用具だ。いつか大人になって社会に出た時、子供たちは、その色、形、味を比較される。学校からはみ出すような子、ルールからはみ出すような子、弁当箱からはみ出すような子は、社会で生きるのは難しいし、容易く切り捨てられる。はみ出たところを今のうちに切り落としておかないと、将来困るのは子供たち自身だ。私は、私の受け持った児童たちに、若い命を無残に散らしたり、自ら絶ったりするようなことになってほしくない。人は間違う。子供はもっと間違う。知らないことも、子供の方がたくさん。だから私たちが教えてあげないと。私は、子供たちに幸せになってほしい、ただそれだけなのだ。


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