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浅月庵さん

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インジケ・ブランクガール

17/12/17 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:621

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 毎日マミーに作ってもらうお弁当のおかずは、空間ごとにしっかり仕切られている。
 ただ、そのなかの一つだけいつもスペースが空白だ。

 そこには山田カイリという男の個人情報が底面に印刷されていて、私は放課後こいつを殺さなくてはいけない。これは指令であり、日課だ。

 だけどある日マミーが「明日からあなたは普通のJKとして生きなさい。お弁当も作らないから」と告げたとき心底困惑して、あたし料理したことないんですけど!って、黒焦げの卵焼きや芯の残ったご飯しか作れなくて、それらの失敗作をターゲット情報の書かれていない普通のお弁当箱にぶち込んで学校に登校すると、あたしは重大な問題に気がつく。

 殺し屋だったあたしから“殺し”を奪ったら、自分は一体なに屋さんになるんだろう。JKって、なにをする生き物なんだ。もしかして、放課後クレープ食べながら街中を歩いたり、プリクラとか撮んなきゃいけないのかなって考えてしまうけど。さらにあたしはもっと重大な問題に気がついてしまう。

 “あたしには友達がいない!”

 素性をなるべく明かさぬよう、高校に入学して他人に話しかけられても全部シカトだったから、いわゆるあたしはボッチというやつだったのだ。
 でも、JKらしいことをするなら、まずは友達を作らなきゃいけないことはわかっていたから、昼休みの時間にあたしと同じく教室で、一人でお弁当を食べている冴えないメガネ女子の机に、無理矢理あたしの机をくっつける。
「一緒に食おうぜ、相棒!」
 あたしが無理矢理表情筋を稼働させて渾身の笑顔を作ると、メガネちゃんは心底怯えた目になって「今度はあなたが、私をターゲットにするの?」って問われる。

 ん。こいつ、あたしの正体知ってる?って、この高校生活で初めて背筋がゾクリとするけど、それは杞憂に過ぎないことがすぐわかる。

「あれ〜? 早瀬さん、どうして私たちがお昼ご飯誘ったとき、シカトぶっこいてたのに。こんな地味メガネちゃんに話しかけてんの?」
 柄の悪そうな四人ほどのJKがあたしたちに近づくので、メガネちゃんがこいつらにイジメられてる構図が、容易に浮かんだ。

「別に。状況が変わったんだよ」
「はぁ? 意味わかんないんですけど」
「早瀬さん! 悪いんだけど、私お昼は一人で食べたいの。だから、ね?」
 あたしと不良シスターズが一触即発なのを察して、メガネちゃんが泣きそうな表情で訴えかけてきた。
「へいへい。それは失礼しやした」
 あたしは彼女の元から離れると、一人でクソまずい弁当を胃に流し込む。不良JKたちは舌打ちをし、自分の席に戻っていって、ひとまず丸く収まるけど、納得いかない。
 くだらねぇことをウジウジやって、みんな空っぽ人間かよって反吐が出るけど、あたしだって大差ないんだよなぁ。

 放課後、いつもだったら掃除を終えると速攻でターゲットの元へ向かうんだけど、もう殺し屋じゃないあたしはダラダラと外靴に履き替えて校舎から抜け出る。
 すると、体育館近くの草っ原で、メガネちゃんがお腹を抱えて蹲っているので、あたしは駆け寄る。そんで、事情を全部聞き出す。

「林さんたちに、お腹殴られた。私、イジメられてるんだ」うん、知ってる。
 彼女は腕捲りをして手首のシュシュを外すと、あたしにリストカットの痕を見せた。
「私もう耐えらんない。死にたいよ」
 メガネちゃんの言葉を受けて、あたしの脳天にガツンとした衝撃。

 ーー今まで、死の際で命乞いをする奴は何人も見てきたけど、まさか進んで死のうとする人間がいるとは。

「そんなこと言うなよ相棒! どちらかといえば、死んで当然なのはあいつらだろ?」
「そんなの私だってずっと前から思ってるよ! 林さんたちもそうだけど、この状況を黙って見過ごすみんなも許せない」
 あたしは一呼吸で、簡単に決心した。
「じゃあ、殺しますか〜」

 次の日。昼休み。あたしは教室にいるクラスメイトを皆殺しにした。瞬時に相手の後方へ回り込み、首をごろろきって捻り上げて、次から次へと命を奪っていく。

 そうしてあたしには、やっぱりこれくらいしかできないんだってことを悟った。

 でも、教室にメガネちゃんとあたししかいなくなって、お弁当を机に広げて、あたしは木の椅子が固くて嫌だからと、不良女子たちを積み重ねて人間椅子を作ると、メガネちゃんは「死後硬直始まったら、どのみちカチカチにならん?」と言って、あたしは「確かに」と答える。

 そこで初めてあたしは、この殺しは誰に命令されたものでもなく、自分がやりたいからやったのだとわかったし。
 あのお弁当のなにも入っていないスペースが、初めて別のもので埋まったのだと、メガネちゃんの笑顔を見て思った。
 そんであたしも笑った。




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