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八王子さん

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怠け者の末路

17/12/17 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 八王子 閲覧数:538

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 時は江戸。
 怠け者の男、二平という男がいる。
 恰幅よく、健康な体を持った二〇を過ぎた男は、日がな一日、家の中でゴロゴロとしている。
「あんたと同じ歳の向かいの辰吉は今日も地主さんのところに仕事をもらいに出て行ったってのに、うちの二平ときたら」
 はああ、と長い溜息をついて、食肉にでもなれば高く売れそうなぐらいに大きな息子の背中を見てぼやく。
「辰吉んところの家に話を通しておくから、あんたは明日、辰吉と一緒に地主さんのところに行って、仕事をもらってきな」
 急に明日の具体的な予定を突っ込まれて思わず起き上がった二平であるが、言うが早いが母はもう草履を引っかけていた。
「もしも明日、一銭も稼いで来れなければ、この家から追い出すからね」
 厳しい口調で言って家を飛び出していく、その背中にかける言葉もない二平は、再び横になった。

 翌朝、まだ肌寒い時間に家の戸を叩く音に、母が飛ぶようにして応じる。
「おはようございます。二平を迎えにきました」
 背は小柄だが、坊主頭とハキハキとした喋り方の立派な青年。
 二平と同じ歳であるのに、どこを間違ってこんなに差がついたのは不思議で仕方がない。
「今日は二平をよろしくね」
 眠そうな顔をして、だらだらと出てくる二平の身支度を整えて送り出す。
 このまましっかりと仕事に就いてくれないものかと、辰吉よりも一回りは大きな背中を見て心底思うのであった。

「二平は地主さんのところは初めてかい?」
「あー、そうだな」
「しっかりと働けばお給金だけじゃなくて、ご褒美に甘い物をくれたりするんだ」
「甘い物」
 滅多に口にできない甘い物に目がない二平。
 歩いて数刻。
 息を切らした二平が、汗だくになった頃、ようやく見えてきた地主の屋敷。
 屋敷の後ろには大きな山があり、周りには田んぼがどこまでも広がっている。
「おはようございます。本日もよろしくお願いします」
 門を叩いて大きな声で挨拶をすれば、老齢の男性が皺だらけの顔に笑顔を浮かべる。
「こちらは二平です。一緒に仕事をさせてもらいたいのですが、いかがでしょうか?」
「人手はいくらあっても足りないから助かるよ。二平は力がありそうだし、辰吉と一緒には薪を割ってもらおうか」
 聞いただけで重労働だと察した二平は、今すぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られるも、家に帰るに帰れず、帰るまでもまた長い時間歩かなければならない。
 諦めて辰吉に連れられて、林の中にある小屋の方へと移動した。
 斧を手にしてみれば、小さいのに重たく力を込めなければ微塵も持ち上がらない。
 それなのに割られるのを待っている木は山のように積まれている。
「地主さんが満足するまではやらないと、お給金もご褒美ももらえないよ」
 言うや否や辰吉は斧を手にして早速、薪を割っていく。
 パッカン、パッカン、と小気味の良い音が響くので、それに急かされるように二平も真似して斧を持つ。
「うっ、よいしょーっ、と」
 頭上高くまで持ち上げた斧を構えて、切株の上に立てた木に向かって振り下ろす。
 カツッ。
 辰吉とは違い情けのない音が響くだけでなく、斜めに刺さった斧が抜けない。
「僕には向いてない」
 抜けない斧をそのままにして、早々に諦める二平は、近くの小屋に足を踏み入れた。
 丁度良い畳の寝床を見つけて、ごろん、と寝転がる。
「腹が減ったなぁ」
 そうぼやいて辺りを見回せば、細長い小箱を見つけられた。
 迷うことなく手を伸ばした二平は、フタを開ける。
 中には紅白の饅頭が入っていた。
「これが褒美か」
 白い方を手に取り躊躇わずに口へと運ぶ。
「うまいっ」
 するとどうだろう。
 饅頭を持っていた手が透けているように見えるではないか。
「な、なんだ?」
 不思議に思って声を荒げると、外にいた辰吉が小屋の中に飛び込んでくる。
「二平どうした? あれ……誰もいない」
 辰吉には誰かが饅頭を食べ散らかした後しか見えず、そのまま外の作業に戻ってしまう。
「もしかして、これを食べると他人から見えないのか?」
 これはしめた、と思った二平は、誰にも見えないことを良い事に、そのまま眠りに就いてしまった。

 仕事終わりの夕刻。
 透明になって仕事をサボれたのはいいが、これでは不便で困ると思った二平は、もう一つの饅頭を持ち上げる。
 すると、饅頭の下に一枚の紙が入っているのを見つけた。
 そこにはこう記されている。

 白ノ饅頭カラ食ベルナカレ。
 紅ノ饅頭カラ食ベレバ透明ニナリ、白ノ饅頭を食ベレバ、元ニ戻ルコトダロウ。

(了)


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