1. トップページ
  2. 弁当箱の不思議

みーすけさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

弁当箱の不思議

17/12/11 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 みーすけ 閲覧数:409

この作品を評価する

 こんな事があってよいのか。
 俺が遭遇したそれは到底起こるはずのない出来事だった。

 朝起きたとき。あのときはまだ、あんな事が起こるとは、予想だにしていなかった。
 とにかく、今朝、俺は、昼に食べる弁当の準備をしていた。
 一人暮らしの俺は、節約の為、毎日自分で弁当を作っている。睡眠時間を削られるのは痛いが、昼飯代五百円を浮かすためにはいた仕方のないところだ。何せ、こちとら、しがないヒラ社員だ。

 俺は、一通り調理を終え、完成したおかずをご飯と共に弁当箱に詰め込んだ。この弁当箱は、昨日、会社の帰りに雑貨屋で見つけ、購入したものだ。シンプルだが、温かみのあるデザインで、一目で気に入った。
 その弁当箱を携え、満員電車に揺られながら会社へ向かう。この満員電車に乗っている時、俺はいつも、いつか会社を辞めてやる、と誓うのだ。しかし、その誓いは、今のところ果たされる気配すらない。

 それでまあ、会社へ着き、仕事を始めた。
 午前中の仕事を順調にこなし……こういうと、さもテキパキやっているかのように聞こえるな。それは嘘だが、まあ適当にこなし、ささやかな楽しみである、昼休みとなった訳だ。

 その時、それは起こった。いや、正確に言うと、事が起きたのはもう少し前だが……それが起きた正確な時間はわからない。とにかく、俺は、それにその時気付いた。

 弁当箱が、空っぽだったのだ。

 俺は、「そうそう、この卵焼きがうまいんだ」なんて、軽くノリながら……申し訳ない、また嘘をついた。そんな余裕はなかった。正直に言うと初めは、何が起きたかわからなかった。しばらく、空の弁当箱を見つめ続けた。そして、我ながら素っ頓狂な叫び声をあげた。向かいの席の同僚が、怪訝な顔つきで見つめてくる。俺は頭を掻いてごまかしながら――今思えば全然ごまかせていないが――混乱した心を落ちつけようとした。

 そんなバカな。確かに、俺は、朝、この弁当箱に食材を詰めたはずだ。そのために早起きしたのだ。それが、影も形もなくなるなんて――。

 俺は、カバンの中をあらためてみた。弁当の中身をぶちまけたのではないか、と思ったのだ。まあ、当然の反応じゃないか?
 しかし、予想に反して、カバンの中には、米粒ひとつ落ちていなかった。

 消えた。消えてしまったのだ。弁当の中身が忽然と。はっきり言って、俺は、パニックに陥った。こんなバカな話があるか? 俺の人生で初めて、超常現象としかいえない出来事が起こったのだ。

 それから後、俺は、どう仕事をこなしたのか覚えていない。昼飯も食わず、混乱した頭で、午後を過ごしたのだった。

 翌朝。俺は、同じ弁当箱にピーマンの肉詰めを入れていた。
 何としても、この謎を解き明かさねばならない。そうでないと、俺の、人生の秩序が、崩壊してしまう。これまで信じてきた常識が、崩れ去る、そんな気がしていた。
 とにかく確かめなくてはならない。そのためには、昨日と同じように、早起きして弁当を用意する必要があった。
 それで、結構手のかかる、ピーマンの肉詰めなんてものを、朝から作っている訳だった。

 カバンを抱き抱えながら、満員電車に揺られて会社へ向かう。仕事中も、ちらちらとカバンの方ばかり窺っていた。しかし、カバンに触れるものはいなかった。

 そして昼休み。俺は、緊張しながら弁当箱を取り出した。
 手に取った時点で、異変に気付いた。
 ――軽い。俺の心拍数が跳ね上がる。まさか、また、消えているのか? 一体全体、どういう訳で……。
 とにかく、開けてみよう。話はそれからだ。俺は、思い切って蓋を開けた。

 消えていた。またもや弁当の中身が、消え失せていた。もう、間違いない。とても信じられないが、この弁当箱に入れた具材は消えてしまうのだ。何てことだ。現在の科学を覆す、とんでもない大発見かもしれない。しかるべき研究機関に連絡しなければ……。そんな風に狼狽していたそのとき、俺はあることに気づいた、
 ……いや、ちょっと待てよ、何かあるぞ。何だ? 一体。これは……ピーマンだ。
 そうだった。よく見ると、肉詰めピーマンのピーマンだけが、弁当の隅に、ちょこん、と鎮座していた。
 俺はそのとき、俺は自分の昼飯のことも、超常現象のこともすっかり忘れて、叫んだ。
「……好き嫌いするな!」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン