1. トップページ
  2. あなたの胃袋が欲しい

眠々瀬未々さん

https://twitter.com/mimise_mimi

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

あなたの胃袋が欲しい

17/12/10 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 眠々瀬未々 閲覧数:372

この作品を評価する

 お弁当。弁えて当たれと書いておべんとうと読む。
 嘘。
 中国は宋代の俗語に、便利なことを意味する便当という言葉があった。その言葉が外来語として日本に入ってきた時、外出先で食事をするために便利なものという意味が加わり、弁を当てはめることになって弁当になったのだ!



「今日は鮭の照り焼きだよ」
 私は隣の同居人に話しかけた。
 マクベスと名付けた彼は、カマキリのような体で背伸びをして、間隔の離れた両目の上半分でまな板を覗き込んだ。私は生ざけの切り身を一口大に切り、塩とこしょうをふった。マクベスは塩とこしょうが鼻に入ってくしゃみをした。
「それは美味しい?」
 彼は鼻をかみながら不安そうな目で尋ねた。
「今日こそは美味しいよ」と私は答えた。小さじ1杯のしょうゆと料理酒、それから小さじ半分のだしを小皿に入れ、それを混ぜ合わせる。
 今までは目分量だったけれど、今日はしっかりと計量スプーンを使っているよ。だって、自転車を漕ぐ練習にしたって、まずは補助輪や支えが必要だもの。それを、補助輪や支えはおろか、ブレーキさえない自転車を漕いでいるようなもので……。そりゃ美味しくなるわけがない! でも今日は違う。
「本当かなぁ。僕は昨日もその言葉を聞きました。明日はもう食べてあげないからね」
 彼はそう言ってダイニングに向かった。
 ムカつくやつだ。
 今日はちゃんとレシピ通りに作るんです。初心者の一手間は一手間じゃない。私はそれ、最近学びました。今日の私は過去最高に料理が上手なんですよ、本当に。
 フライパンにごま油を熱し、先程のさけをフライパンに入れる。心地好い音と匂いが広がり、思わずマクベスもくしゃみをした。彼はいい匂いを嗅ぐと、くしゃみをしてしまうのだ。ちなみに最初のくしゃみはただのくしゃみだ。
「早く美味しくなあれ」だなんてことを言いつつ、さけをつっついて遊ぶ。
 徐々に焼き目がついていくさけをひっくり返し、裏側も同じように焼いていく。マクベスはもう一度くしゃみをした。そして、混ぜ合わせたものをフライパンに入れて味をからませていく。マクベスはいよいよ鼻血を出してしまった。黄色い血をティッシュで拭き取りつつ、こちらを横目で見つめている。
 出来た! 火を止めて、鮭の照り焼きを皿に移し替えた。



「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
 マクベスさんはお辞儀をして椅子を降りると、床に寝っ転がった。牛になりますよと注意をすると、彼は放屁を返事の代わりに寝息を立て始めた。枝のように細い腕が、春の陽の光を浴びて白く輝いている。内側の血管や骨、筋肉まで透けて見えてしまいそうだ。時計に目をやると、10時を少し過ぎたところだった。
「でも、いいんですか? 本当に」
「いいですよ。こちらこそ、本当にいいんですか?」
 なんだ、起きていたんですか。私はどのように食べるのか考えてみた。揚げてみる? しかも丸焼き? 楽しみだなあ。
「もちろんです。それが果たさなければならない約束でしょう」
「ええ、そうですね。とにかく、美味しいものをもう一度食べさせてください」
「はい、もちろんです。実は今日振る舞ったものは手作りではないんです。だから今度は手作りの美味しいものを食べていただきたいです」
 料理は高校の家庭科の授業以来まともにした覚えがない。でも、何とかなるでしょう。私、手先器用ってよく言われるし。
「それは楽しみです。もちろん、美味しいものを振る舞っていただけなかったその時は、あなたの命を頂戴いたします。その代わり、美味しいものを振る舞っていただけたその時は、私の命を」
「はい。分かっています」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン