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満希虹里さん

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簡単なランチ

17/12/10 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 満希虹里 閲覧数:360

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学生で母子家庭の住み込みのベビーシッターをしていた時、日本の弁当に比べて、アメリカの手作りランチは簡単だと思った。母親のアリソンは夜勤の看護婦をして不在の時、小学生4年生のジェイソンは自分のランチを作っていた。母親が買い置きしたブラウンの食パンの一枚にピーナツバターとストロベリージェリー(ジャム)を塗り、もう一枚を上にのせて出来上がりで、透明ビニールのサンドイッチバッグに入れる。青い色の怪獣の絵がついたランチボックスにサンドイッチと一緒にクッキーの小さい袋、林檎かオレンジ、紙パックの果物ジュースを詰めて、冷蔵庫に1晩置き、翌朝学校にそれを持っていくのだ。ジェイソンは大人しい男の子で私に風邪をひいて寝ていた時、一度「メグ(恵)、ソーダーを持ってきてくれない?」と静かに頼んだことしか覚えていない。

アリソンが毎朝夜勤明けで帰ると、まずジェシカのランチを作る。アリソンは焦茶色の髪とすみれ色の目をして背がすらりとして高く、息子がよく似ている。性格も似ているかもしれない。同じようなピーナッバター・ジェリーサンドイッチだが、ジェシカの場合、4切れにしないと承知しない。アリソンが小さな子に食べ安いようにしたのが、習慣になって、4切れのサンドイッチに母親の自分への愛情を感じているのが分かる。残りは兄のようにクッキー、生の果物、紙パックのジュースでディズニーの白雪姫の絵が載っているピンクのランチボックスに詰め込まれる。こんな簡単なランチだったら、ジェシカのも前の晩に私が作れるが、娘が承知しないのをアリソンは知っている。「ジェシカを躾けるのは大変なエネルギーがいるわ。ぶつしか方法がない時もあったわ。ジェイソンは大人しい赤ん坊だったから、こんなだったら、子供が1ダース居てもいいわねと思ったのよ」と冗談めかしに言う。アリソンは車でジェシカを幼稚園に連れて行き、私を学校へ行くバス停前で降ろし、自分は自宅へ戻って昼中睡眠を取るのだ。

毎晩アリソンは夕食を簡単に作って仕事に行き、私は学校から帰っても、子供の面倒を見るといっても怪我しないよう見張っているだけで、特にやる仕事はなかった。アリソンは掃除をしてくれとも言わなかった。ジェシカも兄のように、自分で何でもした。鼻歌交じりに、おやつにインスタントラーメンを作れたし、残ったらタッパウエアで冷蔵庫に入れることもできる。だが、ジェシカは私や兄には攻撃的だった。2言目には「ファックユー」で母親が居たら、ひっぱ叩かれただろう。アリソンが朝、疲れた顔をして帰った時は、最上の笑顔で「マミー」と飛びついて、私は「小さいくせしてなんて二面性のある子供なんだろう」と呆れたが、今思うと、私の前のベビーシッターも同じだったと分かる。アメリカ人がよく言う、「個人的に受け取る必要はない」とはこのことだ。それでも経験不足の私は子供達と少しでも仲良くなりたく、ゲームをしようとしたが、二人とも興味を示さない。

アリソンは夫のビルと別居して、電話であらかじめ話がついていたのだろうか、妻がいない時、子供達を迎えに来て、車で連れ出す時もある。ビルは警察官でいかつい顔をしていたが、私には礼儀正しかった。金髪で青い目をして、ジェシカが似ているが、娘は美少女だ。だが、気性の激しいところは父親に似ているかもしれない。1度ジェイソンのフットボールの試合にビルが息子だけを連れて行こうとすると、ジェシカが「キャー」と金切り声を上げた。ビルはクルッとジェシカに向かって、「ジェシカ、今日はジェイソンの番だよ。分かったね」と静かに言うと、ジェシカは目を伏せて、「分かったわ、ダディー」と大人のように答える。車が家の前を出た途端、ジェシカは2階の自分の部屋に駆け込んで、「ワー」と泣き叫ぶ声が聞こえた。

クリスマスイブの晩もアリソンは夜勤だった。リビングルームにあるクリスマスツリーの下にはプレゼントが置いてあり、私の分も赤い紙の箱に「メグ」と書いて、黒皮まがいの手袋があった。ジェシカのクリスマスプレゼントには大きなドールハウスがあった。ところがその晩、女の子は「ファックユー」と言いながら、小さな足でドールハウスをグチャグチャに踏みつけ出した。私は思わず言った。「ジェシカ、クリスマスにマミーにいて欲しいのでしょう?でも、お仕事よ」ジェシカは顔を上げて、「分かっているわ」と大人のように答えて、自分の部屋に入ってドアを閉めた。ジェシカの欲求不満の爆発が重なって私は勉強ができなくなり、ベビーシッターを3ヶ月で辞めた。アリソンの答えは嫌味に聞こえた。「あなたには勉強が大事でしょうけど、私には子供達が大切なのよ」私は「それなら、ジェシカにもっと時間をさいたらいいでしょう?」と言い返したことを今後悔している。





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