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糸井翼さん

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名探偵がおこす悲劇

17/12/08 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:1件 糸井翼 閲覧数:449

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夏休みの懸賞で当たった宿泊券を手に、彼氏と山奥の秘境温泉宿へ行くことになった。でも、山奥のホテルで急な大雨の中、道路が通れなくなり、私と彼は宿に取り残された。ここで私はこのホテルでの誰かの死を予感した。彼と一緒に何かすると大体事件に巻き込まれる。じゃあ何で旅行に誘ったかというと、彼が好きだから。それに、彼は名探偵で必ず事件は解決する。もうこれはお約束。
案の定、事実上の密室で宿の主人が殺された。犯人は、この雨の中だ、宿の従業員か宿泊客に限られる。宿泊客も秘境温泉ということで数名程度。
そして、警察が来られない中で名探偵が犯人を見つけ出す、といういつもの展開だ。なんとなくわかってきた。
「ねえ、もう犯人わかったんでしょう」
私は聞く。大体顔を見ればわかる。
「まあな。でも証拠がないし、それまだ早いんだ」
「まだ早い?」
その意味が私にはよくわからない。急に彼が顔を近づけた。私はびっくりしてよく聞き取れなかった。
「えっ」
「そんなに驚くことか。毎年やっていることだろ」
毎年・・・確かに、ここ数年、夏休みに彼は難事件を解決していたような気がする。でも、何かがおかしいような。頭痛がしたので、考えるのをやめにした。
翌日になり、一人の宿泊客がどうしても帰りたいと騒ぎ出した。いかにも悪人面の中年の男だ。私はひそかに怪しい、犯人じゃないかと思っていた。
「だめです、道路がふさがれているんだから」
「うるさいなあ、仕事があるんだよ。車が行けそうなところまで歩いてタクシー呼ぶから」
いかにも悪人面のその男はそう言って出て行ってしまった。
「あの人、犯人だったんじゃないの」
「探偵さん、追わなくていいのか」
彼は考えていたが、何か今ひらめいたような顔を作り、「まずいかもな」とつぶやいた。
嫌な予感がして、私たちは外に出てあの男を捜したが、見つからなかった。地面の状況はかなり悪いし、それほど遠くに行けるとは思えない。足を滑らして、川に落ちたなんてことも・・・
彼は私と二人きりになると、疲れきった表情にわずかに笑みを浮かべつつ、
「いないか」と尋ねた。
「いないわ。川に落ちたのかも・・・どうするの」
「やはり」
「こうなることがわかってたの」
彼はまた急に顔を近づけた。昨日と同じ感じだから、さすがにそれほど驚かない。
「みんながあいつを犯人と思っていた。おれ以外はな。そういうやつはよくこうなる」
川の流れる音だけが響き、静かに風が吹いた。夏なのに背筋が寒くなった。彼は名探偵で、人の死を予想できた。多分犯人もわかっている。なのに、それを見て見ぬふりをしているのではないか。
「ねえ、犯人を教えて、もう捕まえましょう」
「だめだ、まだ悲劇は終わらないさ」
「もう誰も死んだほしくないでしょ」
彼は少しイラついたような、不思議そうな顔をして私を見てくる。
「昨日も言ったけど、これは毎年のことだよ、気付いてないのか」
「えっ」
「夏休みは普段みたいに簡単で短い事件では終わらないんだよ、これはおれたちにはどうしようもない。毎年繰り返してる、毎年夏休みに連続殺人事件が起きているだろう。この悲劇の筋書きを書いたやつに従うしかないのさ」
そう言って空を見て、笑っている。私はまた頭痛がしてきた。
「そのたびに、おれの本当のゴールが近づいているのさ」
「本当のゴール?なにそれ」
「おれにもわからないよ、結末なんて。だれだってそうだろう」
彼は振り向いて木の陰をにらんだ。その後、私の顔をじっと見た。
「君・・・運命っていうのはどうにもできない。時に理不尽な血や涙を流させるものだぜ」
急に彼が愛おしく思えた。手を強く握ってくる。
また嫌な予感がした。彼は私を見ている。
「犯人はわかってるんでしょ、もういいんじゃ」
「・・・まだ早いんだ」


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このストーリーに関するコメント

17/12/10 文月めぐ

『名探偵がおこす悲劇』拝読いたしました。
最後の彼の台詞「…まだ早いんだ」がなんとも意味深ですね。

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