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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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近藤です

12/12/17 コンテスト(テーマ):【 携帯電話 】 コメント:5件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2230

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 そのとき近藤は、春の陽ざしがさしこむ縁側で、握りこぶしがすっぽりはまるという有名な、大きな口をへの字にまげて、呻っていた。武道ではだれにも負けない自負があったが、隊のトップの局長ともなれば文武両道、文芸の世界にも通じていなければならないという彼流のおもいこみがあった。俳句でもひとつ、作ってみるかということになり、それでいまの、縁側での呻吟になった次第だった。とはいえこれまで、剣の道一筋にやってきたものに、いきなり俳諧というのも無理な話で、これまでただの一字さえかけたためしがなかった。
 そんなとき、ふところで着信音が鳴った。
「近藤です。―――お、歳さんか。なんだ、どうした?」
 せわしげなといかけに、相手は重々しい口調で答えた。
「いま、不審な浪人たちが七名あまり、寺町通り広小路の富屋という旅籠にはいっていくのをみた。隊士の一人がどうも長州者らしい言葉を耳にした。こちらは3人だが、すぐにも打ち込むつもりだ」
「歳さん、まて。そう血気に逸るな。援軍をそちらにやるまで、待機しろ」
 すると携帯のむこうで、舌打ちする音がきこえた。
「近藤さん。そんな悠長なこといって、逃げられたらどうするんだ」
「いいからまつんだ。そのちかくには沖田総司の一番隊もいるはずだ。連絡をとってただちにむかわせるから、いいな、待機するんだぞ」
 念をおしてから近藤は携帯をきると、すべての隊士にむかってメールで通知しおわると、なぜか歳三のメールアドレスをあらためた。
 あの鬼の副長のアドレスだから、さぞかし猛々しいものではと、だれもが考えるところだろう。たとえば、harakiri(腹切り)とか、makotonohata(誠の旗)、もっとはげしく、tishibuki(血しぶき)。
 ところが、メール画面にあらわれた土方歳三のメルアドは、
 tonbidako−toshi@………
と、いたって牧歌的なアドレスだった。
 まえに近藤は、そのアドレスの由来をたずねたことがあった。土方は、相手が局長だから、しょうがない、教えてやるといった調子で、
「おれの俳句からとったんだ」
 歳三がふだんから俳句を趣味としているのは近藤も知っていた。彼の文机には、すでに何種もの俳句をしたためた句集がおいてある。
 歳三はそして、アドレスのもととなった俳句を詠んだ。
「公用にでていく道に鳶凧」
 粋なことをしやがると、そのとき近藤は心のなかでつぶやいた。なにせじぶんのアドレスは、kotetunokireaji(虎鉄の切れ味)だったのだ。
 それでも沖田総司のomenkote(お面、小手)よりはましかと、じぶんを慰める近藤勇だった。
 その総司から、電話がかかってきた。
「近藤さん、いまメールにあった旅籠にかけつけたんだけど、副長はすでに、斬り込んだもようです」
「あれほど、待てといっておいたのに。それで総司、どんな状況だ」
「しんとしずまりかえっています。おれこれから、なかにはいってみます」
「十分注意するんだぞ」
 とはいえ、隊士きっての使い手の総司には、ぜったいの信頼をおいている近藤だったので、言葉でいうほど心配はしていなかった。だがその後に、携帯をとおしてきこえた、総司の咳き込む音を耳にするなり、いいようのない不安が胸をしめつけた。
 近藤はそれからというもの、目のまえにおいた携帯が、いつ鳴りだすかと、そればかりをまちつづけた。
 まつほどに、鳴りをひそめる、着信音
 そんな一句が心にうかび、彼は筆を墨にひたして、さらさらと書き記した。
 途方もない時間が経過したようにおもえてから、ようやく携帯が鳴った。
「土方です。こちらがのりこむ寸前に、浪士たちは屋根伝いに逃走したもようです」
「どうして歳さんの動きがわかったのだろう」
「おれが階段の上り口にきたとき、二階で携帯の着信音がきこえたので、だれかが連絡をいれたものとおもえる。もしかしたら、こちらに裏切りものがいるかもしれない。近藤さん、すぐにも隊士全員の送信履歴をしらべる必要がある」
「わかった。総司はそこにいるか?」
「いや」
「おかしいな。歳さんをみてくるといってたが」
「ちょっとまってくれ―――あ、いた。総司のやつ、階段の途中で咳こんでいる。血を吐いているようだ」
「それは大変だ。すぐ隊士をむかわせる」
 ついさっきまでの、縁側での日向ぼっこが嘘のような急展開だった。
「土方くん―――」
「なんだ、近藤さん?」
「いや、任務、こくろうさま」
 おかしなことをいうやつだなと、沈黙した携帯から歳三の声が、いまにもきこえてくるかにおもわれた。
 近藤は携帯を切ると、俳句をしたためた紙を、じっとながめた。できぐあいを、歳三にきいてみたかったのだが、そんな状況でないことは、新撰組局長でなくてもわかるというものだ。


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このストーリーに関するコメント

12/12/17 草愛やし美

Wアーム・スープレックさん、拝読しました。

面白い設定ですね、携帯だけがこの時代のこの隊に存在していたんですね。楽しく読ませていただきました。
メルアド、彼らならこういうのつけるかもですね。無知な私は、俳句がよくわからないので、このお話の面白さの本来の意味合いが取れなくて残念です。(泣)

12/12/17 W・アーム・スープレックス

こんにちは、草藍さん。コメントありがとうございます。
土方歳三が俳句を嗜んだのは、本当のようです。鳶凧の句も、本人の作です。わたしも俳句のことはよくわかりませんが、あの鬼の副長があんなのどかな俳句を作っていたかとおもうと、面白いですね。本来の意味合いなんて、ありませんよ。

12/12/17 草愛やし美


年礼に出て行道やとんびだこ

けふもけふもたこのうなりや夕げぜん

暖かなかき根のそばやひが登り

12/12/17 草愛やし美

コメント、俳句だけが出てしまいました。
すみません、ミスです。投稿が分かれてしまい申し訳ありません。
この話を読んでいろいろ検索して調べて土方歳三の句を見ていました。
凧揚げで3句あるそうなんですが、鳶凧をアドレスにもっていかれたのが、虎鉄の虎と生き物繋がりになさったのかなとかって……わからないんですが、まあ自分なりにいろいろ考えてみたんです。意味合いというか、アドレス考える段ですごく試行錯誤されたのではないかと思ったんです。

12/12/17 W・アーム・スープレックス

調べていただいて、ありがとうございます。
「公用に………」というのは、こちらの記憶まちがいだったのかも。土方さんには、面目ありません。作中のメルアドは、この人だったら、こんなのかなと、結構楽しみながら作りましたので、試行錯誤はありませんでした。沖田総司の、「お面、小手」は、総司ファンが聞いたら、怒られるかもしれませんね。草藍さんのとらえ方、勉強になりました。今後の参考にさせていただきます。

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