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葵 ひとみさん

「フーコー「短編小説」傑作選8」にて、 「聖女の微笑み」が出版社採用で、出版経験があります。 第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】最終選考を頂きました。 第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】最終選考を頂きました。 心からありがとうございます。 感想、心からお待ちしています^▽^ Twitter @Aoy_Hitomi

性別 男性
将来の夢 毎日を明るく楽しく穏やかにおくります。
座右の銘 白鳥の湖、努力ゆえの優雅さ――。

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――真夏の夜の手術――

17/12/04 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 葵 ひとみ 閲覧数:461

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コンビニの入り口の殺虫灯に無数の死にたがりの虫たちが引き寄せられている。
気品漂う氷のように美しい保育士3年目のルリは一匹の片方の羽を高電圧でもぎ取られて
地面で不器用に回転している蠅をビニール袋に入れて持ち帰った。

そしてコピー用紙にセロテープで残った羽を貼り付けた。

さて、ルリは白いビニールの手袋をして、
恒例の真夏の夜の手術の始まりである。

「さて、今夜はどんな手術がいいかしらね、ウフフ」ルリはデスクの上の患者を眺めながら嘯いた。
「麻酔がないのがお気の毒さまだけどね」ルリは呟いた。

ルリの無情な時計の針のような狂気のオペの始まりである。

ルリはまずは鋭利なカッターナイフで蠅の1本の足を切り取った。
何回ものオペをこなしているルリに躊躇もミスもない。
「ギャァ」と恐怖におののいた蠅の心の中の叫び声がまるできこえるようだ。

ルリは淡々と無表情なまま手術を続ける、今度は注射器の先を繊細かつ大胆に蠅の片目にさしてエチルアルコールを注入した。

「ウギャァ」またもや蠅の心の中の叫び声がきこえるみたいだ。

普通の心暖かい女性なら顔も心もシベリア抑留者のように凍てつくような状況である。

オペの最期にピンセットで蠅の触覚をプツっと容赦なく洗礼者ヨハネの生首のように抜き取る。

「ウギィィ」蠅も息絶えようとしている。

「今夜のオペも大成功、すこぶる気分がいいから、ジャンヌ・ダルクが受けたような拷問に切り変えてあげるわ、貴方も幸運ね」ルリはオペの成功に心底満足した。

ルリは切り取られた蠅の身体の部分を部屋に落とさないようにコピー用紙をたたんで、
再びビニール袋にしまい近くの川辺へ向かった。

都会を少し離れた美しいアンビエントミュージックのようなせせらぎの聞こえる川辺で親子たちが和気藹々と楽しそうに花火にいそしんでいる。

さっき、きまぐれにコンビニで買っておいた線香花火を袋から取り出した。

おもむろに、ルリはそこで座りこみ、

そして不運な蠅が閉じられているコピー用紙を地面に広げて、

線香花火にライターで火をつけて聖母マリアのように目を優しく細めて蠅を眺めながら、ポツリポツリと線香花火を落とし始めた。

「オレガナニヲシタッテイウンダァァ!!!」まるで断末魔のような蠅の最期の魂の叫び声が真夏の夜空に谺した。



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