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蒼樹里緒さん

https://note.mu/aorio まったり創作活動中です。 コメント・評価等、本当にありがとうございます。個別返信は差し控えますが、とても励みになります。

性別 女性
将来の夢 趣味と実益を兼ねた創作活動をしながら、気ままに生活すること。
座右の銘 備えあれば患いなし/一石二鳥/善は急げ/継続は力なり/思い立ったが吉日

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大量凄惨

17/12/04 コンテスト(テーマ):第150回 時空モノガタリ文学賞 【 悲劇 】 コメント:0件 蒼樹里緒 閲覧数:437

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 昔々、とある小さな町に、鍛冶屋の老人と孫息子が暮らしていました。生活に必要なものであれば、二人で何でも作っていました。
 トンカン、トンカン。鍛冶屋の家からは、その日も金属を打つ音が軽快に響いていました。作業場に、一人の少女がやってきます。
「ふたりとも、お疲れさま。差し入れ持ってきたよ」
「おぉ、いつもありがとうよ」
「今日のパンもうまそうだなー」
 仕事の手を休め、老人と少年は昼食を食べ始めます。うまいうまい、と惣菜パンを頬張る二人を、少女もあたたかく見つめました。けれど、その顔は曇っていきます。
「帝國軍が、隣の国まで攻めてきたんだって。この町も危ないのかな……」
「心配すんなって。この剣で敵を倒してやるからさ」
 腰に差した武器に目をやり、少年は胸を張りました。軍の兵士が扱う剣に比べれば、短く歪で不格好です。それでも、本人にとっては、自力で初めて作り上げた記念の一品なのでした。
 工場で大量生産されるのとは違う、職人独自の技と魂がこもる武器。鍛冶屋の仕事に、少年は未熟ながらも誇りを持っていました。
 老人が微苦笑します。
「戦争なんて、ないに越したことはないがな。この頃は余所の連中からの発注も増えてたが、なるほど、そのせいか」
「軍事工場じゃ、さすがに傭兵の武器までは用意してくれねえもんな。おれらは儲かるけど」
 少年の手を、不意に少女のてのひらが包みました。その細い手首には、青い鉱石の付いた腕輪がはまっています。少女の瞳と同じ色。彼女の誕生日に、少年が作った贈り物でした。
「戦争になったら、あんたが徴兵されて戦うのも仕方ないことだけど。お願いだから、無茶だけはしないでよね」
 少女の眼差しは、今までにないほど真剣でした。ごくりと思わず喉を鳴らしてから、少年は陽気に答えます。
「だいじょうぶだって。おまえも、おじさんとおばさんも、じいちゃんも、おれが絶対護るから」
 やがて、少女の不安通りに、帝國軍が町まで攻めてきました。徴兵された少年も、敵兵と必死に戦いました。付け焼き刃の訓練しか受けませんでしたが、自分の生まれ育った場所を護れるのならそれで充分だと、自国軍も少年兵たちも考えていたのです。
 ある者は腕を斬り落とされ、ある者は腹を刺し貫かれて、仲間が次々と息絶えていきました。
 ――じいちゃんとあいつ、無事だよな……。
 ほとんどの住民が避難し、廃墟となりつつある町の中を、少年は駆け抜けます。草花も燃え、宙に火の粉が舞う中を、大切な人たちと合流するために。
 やがて、町外れの教会にやっとのことで辿り着きました。指定避難所の一つであるそこには、きっと祖父や幼なじみ、その家族もいてくれるはず。
 ところが、生きた人間はいませんでした。誰一人として。
 礼拝堂の奥には、山ができていました。血腥く真っ赤に染まった、夥しい死体の山が。
 三人の敵兵が、笑っていました。
「馬鹿な奴らだよな、あっちの部隊が陽動だとも知らないで」
「裏手の警備ががら空きで助かったぜ」
「楽な仕事だったな。そろそろ向こうと合流するか」
 剣を握りしめていなければ、少年の爪はてのひらに深く食い込み、皮膚を突き破ってしまっていたかもしれません。
「おい、まだ生き残りがいるみたいだぜ」
「なんだ、ガキじゃねえか」
 嘲笑する敵兵たちに、少年は叫んで立ち向かいました。本気の殺意を、瞳と剣に込めて。
 それでも、荒削りな攻撃は、熟練の兵士にはたやすくいなされてしまいます。相手の長剣が、防具の隙間を貫きました。
 吐血して倒れる少年を戯れに蹴飛ばし、敵兵の一人が提案します。
「こいつもこの山に加えてやるか」
「お仲間と一緒なら淋しくねえもんな、坊や」
 瀕死の少年は、放り投げられました。教会の高い天井が一瞬だけ近くなり、またすぐに離れます。誰かの死体の上に、覆いかぶさってしまいました。
 ぼやける視界の隅で、青い石がきらめいたように見え、思わず目を瞠ります。
 血にまみれ、力をなくした少女の腕。いつも自分や老人を気遣い、支えてくれた手。
 彼女の名を呼びたくても、か細い息が漏れるだけです。
 去っていく敵兵の足音を聞きながら、少年は泣きました。

 ――そんなに戦争が好きなら、罪もない人たちを殺すのがそんなに楽しいなら……おまえら全員、『凶器』になって死んじまえ!!

 死に際の強い願いは、呪いとなって降りかかりました。一つの町どころか、世界中に。
 敵兵たちが絶叫し、その姿が彼らの持つ武器と全く同じものに変わり果てます。
 死体の山が、炎に呑まれたかのように輝きながら崩れ始めました。少年も、竃で焼き尽くされるような感覚に包まれます。
 少女の手を取ろうとしましたが、自分の姿が変質していくのもわかりました。

 教会に残ったのは、数十本もの剣だけなのでした。


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