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ツチフルさん

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願い帳

17/12/04 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 ツチフル 閲覧数:360

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「これは【願い帳】よ」
 ママがくれたのは、手のひらより少し大きな帳面だった。
「最初のページを開いて。…そう。そこに理恵のお願いを書くの」
「お願い?」
「やりたいこと。欲しいもの。何でもいいわ」
 私はしばらく考えてから【ハンバーグが食べたい】と書いた。
「書いたよ」
 ママは私のお願いを見て微笑み、その下に横線を引いて【方法】と書いた。
「ハンバーグを食べるためには、どうしたらいいと思う?」
「ママにお願いする!」
「そう。じゃあ【方法】のところに【ママにお願いする】って書いて」
「……書いたよ」
「ほかにはない? ハンバーグを食べる方法」
「レストランへ行く?」
「そうね。それにスーパーで冷凍ハンバーグを買うとか、理恵が自分で作るって方法もあるわ」
「私、ハンバーグなんて作れないもん」
「その気なら教えてあげる。とりあえず【方法】のところへ書いてみて」
 言われるままに、書く。
「これで、お願いが叶う準備ができたわ」
「準備?」
「これから理恵は、書いた【方法】を試してみるの。新しい方法を思いついたらそれも試してみる。ただし、自分ができそうな方法だけ」
「そうすれば、お願いが叶うの?」
「すぐに叶う場合もあるし、ちょっと時間がかかる場合もあるけれど、必ず叶うわ」

【ハンバーグが食べたい】という願いは、しばらく後にママが作ってくれた。
 幼い私は「お願いが叶った」と大喜びし、その日から願い帳は宝物となった。
 


 初めての願いが食べ物だったせいか、私の願い帳にはしばらく食べ物のお願いが続く。
 カレー。シチュー。アイス。チョコ…
 それらはいずれも(時間はかかっても)叶えられた。
 願いに変化が現れたのは、秋の運動会のとき。
 かけっこの選手に選ばれた私は、願い帳に【一等賞になりたい】と書いた。
 そのための【方法】に書いたのは【練習をたくさんする】。
 ママは、スマートフォンで【走りかたのコツ】の動画を見せてくれた。
 おかげで、私の足はずいぶん早くなったと思う。
 でも。
 それでも、勝てない子がいた。一緒に走る絵美ちゃんだ。
 私がどんなに頑張っても絵美ちゃんのほうがずっと早くて、運動会の練習では一度も勝てなかった。
 私はあせった。
 願い帳に書いたお願いが叶わないなんておかしい。あってはならないことだった。
 私は【方法】を必死に考えた。
 一位になる方法。絵美ちゃんに勝つ方法。
 願いが叶わないのは、きっと【方法】が間違っているせいだから。
 思いついたのは運動会の前日。
 私は願い帳にその【方法】を書き、実行した。
 張られたゴールテープを切ったとき、私は願いが叶ったと心から喜んだ。
 
 絵美ちゃんは走らなかった。
 階段から落ちて、足を骨折してしまったから。



 願い帳の使い方はとても簡単。
 願い帳に願いを書く。
 すると、願いを叶えるための方法が浮かんでくる。
 それを書いて実行する。
 それだけだ。
 もし叶わないとしたら【方法】が間違っているせい。だから、正しい【方法】にたどり着くまで試し続ける。
 中学生になってからも、私は願い帳を使い続けた。
【スマホを持ちたい】という願いは【お母さんにねだる】という方法で叶った。
 お母さんは「テストで百点とれたら」と条件をつけたけれど、私は願い帳に【百点とりたい】と書き、その願いを叶えた。
 正しい【方法】もすぐ見つかった。先生に裸を見せただけ。
【鈴村君とつきあいたい】と言う願いも叶った。
 彼には彼女がいたけれど問題なかった。
 願い帳に書いた【方法】の中で正しかったのは、彼女と別れてもらうこと。
【彼女と別れさせたい】という願いで正しかった【方法】は、悪い噂と合成写真だった。



 私の願いは叶え続けられた。
 無理と言われた大学にも合格した。気にいらなかった顔も綺麗になった。
 憧れの外車や都内を見渡せるマンションも、自分名義にしてもらえた。
 私を犯罪者呼ばわりする人や恥知らずと侮辱する人もいたけれど、気にならなかった。
 しつこい時は願い帳に書けばいい。
 彼らは、すぐにいなくなった。
 

 願い帳は、今も私の願いを叶え続けてくれている。
 …ただ。最近は気乗りしない願いごとが多い。
 そんなことを思いながら、お茶に粉末を溶かし込む。


「お待たせしました」
 私は二人の前にお茶を置き、願い帳をテーブルにのせる。
「それは?」
「願い帳です」
「願い帳?」
「これに願いを書くと、どんな願いも叶うんですよ」
「…ほう」
  初老の警官はお茶をすすり、若い警官も困惑しながらそれに習う。
「それで。今のあなたの願いは叶いそうですか?」
 バカにしたように訊く初老の警官に、私は微笑んで頷いてみせた。
「ええ。もうすぐ」  (了)


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