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与井杏汰さん

突然思い立って短編小説を書いてみたくなりました。このサイトを知って、うれしく思います。

性別 男性
将来の夢 そこそこの健康と、そこそこの自由。
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母のキャラ弁

17/12/03 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 与井杏汰 閲覧数:368

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 「お前んちの母ちゃん、相変わらず面白いな」
太一の弁当を覗き込んだ級友が囃し立てた。
 「うるせー。見んな」
恥ずかしくなった太一は、弁当をフタでかくして、そそくさと食べ始めた。それもそうだ。17歳にもなって、弁当の中身が「アンマンマン」と「バイ金太郎」を描いたキャラ弁だったのだから。先週はラッキーマウスだったし、その前は新幹線、そうかと思えば、髪の長い女性と網タイツを模した意味不明の時もあった。クラスメイトには「来週、この娘が脱ぐんじゃねえの?」といじられた。
 「お前ら、本当はうらやましいんだろ」
そう強がってみたが、やはりこのシリーズは恥ずかしい。
家に帰ると、パートから帰った母をつかまえて、「いくら何でもアンマンマンはやめてくれよ」とクレームを言うが、「あんた昔好きだったでしょ」と言われる始末だ。「俺、もう高校生なんだけど」と言っても、「あれ、結構作るの大変だったんだよ。ありがたく食べたらいい」と全く聞き入れる様子はない。

やがて季節が変わった。太一は目の前の大学受験に向けて以前より忙しくなっていた。そんなある日、家に帰ると母のパート先から電話があった。
 「お母様が倒れて病院に向かいました」
太一は慌てて父にメールすると、自分も病院に向かう。
 「どうしたんだい、母ちゃん」
病院のベッドに力らなく横たわる母に聞くが、言葉は返らない。ただ昏睡していた。駆け付けた父と交代で看病するが、実際に意識が戻ったのは数日後だった。

母が倒れた後、太一は、学校の食堂や売店の世話になった。父は仕事と病院の付き添いで忙しく、太一自身も受験勉強や家事の手伝いで忙しかった。「お前、最近弁当見ないけど、家で何かあったか?」級友が遠慮がちに聞いてきた。「いや、ちょっとね」なぜか本当の事は言いたくなかった。見栄でも、惨めだからでもなく、母の病気を皆に伝えることで、自体が深刻なことを認める事になる気がしたのだ。母はすぐに治って元に戻るだけだ。そう信じていたし、だったら余計な事で皆に心配をかけたくない。

しかし現実は違った。やがて医師に事態の深刻さを伝えられた父は珍しく涙をみせた。2か月後、大学受験の直前に母は他界した。最後に薄れゆく意識の中で太一の手を握り、「もう一度弁当作ってあげたかった」そう言い残した。

その後、母に先立たれた父は過労で体調を崩し、一時休職したものの、結局会社を辞めて療養することになった。太一はバイトと奨学金で何とか大学を卒業した。折からの就職難だったが、幸い希望の業種で中堅の会社に入ることができた。父とは離れて暮らすことになったが、体調が戻った父は第二の就職先で、それでも何とかうまくやっていたようだ。

高校を出て10年が過ぎた。太一は始めて会社に弁当を持参した。結婚したばかりの妻が、たまにだけどね、と言って作ってくれた。お互い仕事があるからと遠慮したのだが、ありがたく頂戴することにした。「お、お前今日は愛妻弁当か」同僚にからかわれて、「いや、まあ」と口ごもりながらフタを開けた。
 「!」
太一は一瞬何が起きたのかわからなかった。どれどれ、と近づいてきた女子社員が「うそー、かわいい」と言った。そこには、あの日みたアンアンマンとバイ金太郎がいた。「おー、お前の嫁さんも手が込んでるな」先輩が関心したように呟いた。太一は混乱した頭で、照れながら弁当を食べた。

家に帰ると、遅れて帰宅した妻に尋ねた。
 「今日の弁当だけどさ」
 「あ、どうだった?」
太一は唾を飲み込んだ。
 「お前、何で知ってんだ?」
少し微笑んで妻が答えた。
 「ってことは成功だね! お母さんに報告しなくちゃ」
 「どういうこと?」
 「あのね、結婚した後、お父さんがノートをくれたの。お母さんが大事に書き続けていたんだって。太一さんに作った弁当の写真とかイラスト、レシピがぎっしり。日付とか、あなたが帰ってきて話した感想とか。ひどいよね。あなた、結構文句ばっかりだったのね。でも、お父さんが、『あれが、最後にこれを、将来の奥さんに渡してくれって』って私にくれたの」
 太一は言葉を失った。母がそこまでしていたとは露ほども思わなかった。
 「あのね、私はお母さんに会ったことないけど、こうして何か教えてもらった気がするし、嫁として認められた気がするわ」
太一はじっと聞いていた。深く考え、そして「本当にありがとう」と言った。「でも」彼は思い出したように言った。
 「あの網タイツの女性とか絶対やめれくれよ」
妻はニコリとして、「あれ、本当はあなた気に入ってたんでしょ。お母さんは気づいてたわ」と言った。


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