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入れ替り

17/11/29 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 スイカ 閲覧数:466

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「なんで?」
 男が発した驚きの声に、彼は深い笑みを浮かべた。なんで? そんなこと決まってるだろう。
「ドッペルゲンガーって知ってるか?」
 そう言いながら、彼は自分と瓜二つの顔をした男に向かってナイフを勢いよく振り下ろした。


「ああ。肉、肉、肉、肉肉肉肉肉、肉!」
 本物との入れ替わりを無事果たしたドッペルゲンガーは、自分の物となった腕を、足を、胸を、顔を、身体の至る所を触りまわる。
 今まで感じることの出来なかった、感じたくて仕方がなかった肉の感触に、男は歓喜を隠すことなく声を張り上げた。
「いい! いいぞ! なんて素晴らしいんだ! 身体がある! 肉体が! 俺はもう消えない! 不安定に、曖昧な意識で世界を彷徨う恐怖を味わうことも、もうない!」
 人一人を殺した直後だというのに、ドッペルゲンガーはそんなことを微塵も感じさせない。ずっと憧れていたのだ。朦朧とする意識の中で、アイツが生を謳歌しているのをずっと見ていた。
見るもの聞くもの全てに楽しげに反応し、本当に幸せそうな顔で笑うアイツ。ずっと、ずっとその姿に、生きることに憧れていたのだ。ここで喜ばずに、どこで喜ぶというのか。
「ふふ、ははははは。さて、それじゃあ行こうかね。今日から俺が俺なんだから」
 そう言ってドッペルゲンガーは男の所持品を奪うと、何事もなかったように街の中へと消えていった。


 目の前に置かれた大きな肉塊を前に、彼はごくりと喉を鳴らした。
「こ、これが肉! 本当の食べ物だ!」
 周囲から向けられる訝しげな視線に気付くこともなく、彼は血の滴る肉を口の中に放り込み、これでもかと咀嚼する。
「お、うお、あああああ、これが……」
 涙を両目に浮かべ、彼は何度となく頷きながら肉を飲み下す。
「うん。美味い! ステーキ美味い!」
 ニコニコと本当に嬉しそうに笑いながら、残ったステーキをガツガツと勢いよく頬張った。


 ――ゲームって楽しい。本当に楽しい。どういう理屈で動いてんだコレ?
歓喜にコントローラーを操作する指を震わせながら、血走った目で画面を凝視する。男は体力の限界が近いことを察しながら、それでもゲームをやめようとはしなかった。
「……ぐ、お。も、う……限界、か?」
 はあ、はあ、と切れ切れに息を吐きながら、彼は視界が黒く暗転していくのを感じる。感じながら、彼はゆっくりと横に倒れ込んだ。それでも、彼は満足気な笑みを浮かべていた。


 入れ替わりが成功してから何年経っただろうか? 最初の内は暫くすれば飽きてくるのではと考えていたのだが、世界は本当に素晴らしい。一向に飽きる気配は無く、ドッペルゲンガーは始めの内と変わらない新鮮な気持ちで人生を謳歌していた。
「ああ。なんて素晴らしいんだ」
 ドッペルゲンガーは感嘆の声を上げながら野原に寝そべっていた。心地よい風が顔を凪ぎ、緑の臭いが鼻腔を刺激する。
「入れ替わって良かった」
 しみじみと呟き上半身を起こす。そろそろ帰ろうかと伸びをし、その体勢のまま動きを止めた。先程までののどかな空気が一変し全身が泡立つ。背筋に冷たい汗を伝わらせながら、彼はゆっくりと、身体を軋ませながら振り返る。
「なんで?」
 ドッペルゲンガーは目の前に立つ自分と瓜二つの男を前に、掠れた声で呟いた。


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