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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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あの日のお弁当

17/11/26 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:714

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 いまは廃校となった小学校校舎に、特別の許可をもらって今回昭和五十一年度卒業の6年A組の生徒たちが集まることになった。
 過疎化で、住民たちも激減したこの町に、久しぶりにもどってきた連中も少なくなく、大野栄子もその一人で、都会暮らしのながい彼女の目にこの、山間にある小さな町は眠たくなるほどのどかで静かな場所だった。
「まあ、ひさしぶり」
 渡り廊下を歩いているとき、安藤絹江が声をかけてきた。当時大の仲良しだった絹江とは高校までいっしょだったがそれぞれ都会の大学に進んででからはとんと音信不通になっていた。それでも数十年ぶりにあったいま、肉がついてふやけたその化粧でなんとか若返らそうと涙ぐましい努力がありありの顔を一目見て、栄子はすぐ彼女だとぴんときた。すでにここにきて顔をあわせた面々も同様に、問わずともすぐにそれがだれか彼女には容易にわかった。いくら年月がたっても、子供のころの面影というのはかわらないものだ。栄子自身、じぶんではずいぶんかわったとおもっていたが、当時の学友たちは彼女をみて、誰かとみまちがえることなく「栄ちゃん。元気」、「ちっともかわらないじゃない」と口をそろえていった。
 集合場所の教室にいくと、そこに置かれた机も椅子も、二人からみると信じられないぐらいちっぽけに思えた。
「よくまあ、こんなのに座っていたものね」
 三人の子供を産み育てた絹江が腰かけると椅子は、ぎいぎいと悲鳴をあげた。
 教室にいた出席者の大半が、懐かしそうな笑顔を二人にむけた。やんちゃだった男の子たちが、妙にかしこまっているのが、彼らの何人かにスカートをまくられた体験をもつ栄子にはおかしかった。
 それからも次々と参加者たちが教室にやってきた。そのなかに白髪で、曲がった腰を杖で支えた老人がいるのをみたみなは、「宮先生」と声をあげた。体育会系の、男子生徒たちからは結構おそれられた先生だったが、いまかれらをみるその目は、うれしさとやさしさにうるんでいるようだった。
 そしてひとり遅れるようにして、女性が教室にはいってきた。
 統一された黒の衣服、優美な形のハイヒール、きらめくダイヤの指輪――そのさりげないセンスのなかに、みたされた生活環境がうかがえた。
「――あれ、だれ」
 絹江にきかれた英子もまた首をかしげた。周囲のみんなもわからないのか、いま出現した女性に目をこらしている。
 そのとき幹事の時田が口をひらいた。
「みなさん、おいそがしいときに、ようこそおあつまりいただきました――」
 わざとらしく腕時計に目をやってから、
「まもなくお昼になります。みなさん当時とおなじ席にすわってください」
 みんなは記憶をまさぐりながら、それぞれの席につきはじめた。おぼえてないものもいたが、まわりからおしえられて、じぶんの席を探し当てた。全員、座り終わったとき、栄子は、あの女性がじぶんの隣の机にすわったのを知った。彼女はしかし、女性が誰かわからないので、当時自分の横にいた生徒が誰かも、おもいだせずにいた。
「それでは、お弁当の時間です」
 時田の声に、みんなは布巾に包んだ弁当箱をとりだした。同窓会の通知に、当時たべていた弁当を持参とあった。栄子がこの同窓会に出る気になったのも、そのユニークな企画にひかれたからだった。弁当箱をあけているみんなをみても、じぶんと似たような気持ちだということが、そのうきうきしたふるまいにあらわれていた。みんなのまえには、母親の手作りの料理を再現した弁当がならんでいる。男たちは――なかには自分自身で作ったものもあるようだが――妻に、女たちはじぶんで、丹精こめてつくってきたものだった。
「いただきまーす」
 はやくもみんながたべはじめるなかに、栄子は、ちらととなりの女性の机をながめた。そこに弁当箱は乗っていたものの、中身はからだった。その瞬間栄子の、わすれていた記憶が一瞬にしてよみがえった。
「立花さん」
 立花弥生はいつも、弁当箱を顔におしつけるようにして食べていた。その間ただ、箸が底にあたるカチャカチャという音がするだけだった。顔から離したときには、弁当箱の中は空だった。たべているふりをしていたのはすぐわかった。母ひとりと妹の三人暮らしの弥生の家庭の現状を、自分の母が重い口調でいっていたのを栄子はきいたことがある。
「これがわたしの原点だということを、あらためておもいだすために、ここにきたの」
 栄子は弁当箱を手にすると、そういう立花のほうへ身をよせ、空っぽの弁当にご飯とおかずを半分、わけてやった。小学校の教室で、立花の弁当箱にこうしてわけてやっていたことを、彼女もまたおもいだしたのだった。
 やっぱりきてよかったと栄子は、弥生と二人、楽しそうに弁当をたべながらおもった。




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