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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
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初春の…ああ!

12/12/15 コンテスト(テーマ):第二十回 時空モノガタリ文学賞【 お正月 】 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:3223

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「うーん、もうちょっと」
 男は温もりが心地よく、布団から抜けられない。さらにうつらうつらと微睡(まどろ)み、目を覚ますと昼前。やっとのことでゴソゴソと起き出した。あとはコーヒーを沸かし、こんがりと焦がしたトーストでハムを挟み囓る。元旦だというのに普段の朝と変わらない。
「初日の出を撮ってくるわ」
 妻は一眼レフカメラを抱えて、年末から行方不明。どこへ出掛けていったものやら?
 だが男は、こんな妻の行動に文句を付けるつもりはない。一緒に初日の出なんて、寒くって、まっぴらだ。
「綺麗な写真が撮れればいいね」
 こんな言葉を掛け、妻を送り出した。おせち料理もない元日、「あいつは好きなことやってんだから、こっちも気楽にすっか」と別段不満はない。昨年一年の疲れを癒やすかのように、まことに悠々閑々と過ごしている。
 そんなくつろぎの昼下がり、娘から電話が掛かってきた。
「えっ、お母さんいないの。ふうん、そうなの。お父さんて、お母さんを愛してんだね。だけど大変そう」
 こんな慰めの言葉に、男は「あぁ」とだけ答え、電話を切った。あとは酒でも飲むかと、頂き物の大吟醸をなみなみとコップに注ぎ、長めにチン。立ち上がる湯気をふうと吹き、ゴクゴクとあおる。その結末は、やっぱり睡魔に襲われて、ソファーで白河夜船。

「あなた、こんなところで寝てたら風邪引くわよ」
 こんな呼び掛けで、男は虚ろに目を開けた。すると、妻が仁王立ちしてるではないか。これはひょっとすると趣味の悪い初夢かと一瞬過ぎったが、男は現実に戻され、「あぁ」とだけ怠く答える。
「嫌だわ、あなた。『あぁ』しか喋れなくなったんだから」
 それにまた男は「あぁ」と繰り返す。しかし咄嗟に、これではまずいと思い、「お帰り」と付け加えた。
「さっ、これから私たちのお正月をしましょ」
 しばらくしてお重がテーブル上に並んだ。男は妻と向かい合い、すでに封を切ってしまった大吟醸をお屠蘇(とそ)とし、猪口に注ぐ。そして背筋を伸ばし、「あけましておめでとう。君のお陰で無事正月を迎えることができました。またこの一年、よろしくお願いします」と、照れながらもこんな改まったことを口にした。そして猪口を妻のお猪口にカチンと合わせる。
「こちらこそ、いつも我が儘にさせてもらって、感謝してるわ。本年もよろしくお願いします」
「あぁ」と男は一言返し、ぐいと飲み干す。そしてやおら窓の外に目を向けると、白いものが……。
「初雪だよ」
 それに妻は「そうね」と返し、あとは「このお酒美味しいわ」と目尻にいくつもの皺を寄せるのだった。

 ブツッ。
 正月休暇を終え、単身赴任先へと戻ってきた高見沢一郎、ここまで観たDVDのドラマを切った。
 今年の正月は妻の夏子と喧嘩もせず、割と和気藹々と過ごせた。しかし出掛けに、「あなた、このドラマ、結構味わいがあるわよ」と渡された。
 明日からは仕事。だから今日中にとプレーヤーに放り込んだ。だがここまで観た感想は、そういうものかという程度のもので、格段の味わいなるものは感じられない。
 そんな頃合いをまるで見計らったように、着メロが鳴った。妻の夏子からだ。
「あなたドラマ観た? 良かったでしょ。お互いに干渉しない、あんな自由で気ままな……妻の生き方に憧れるわ」
 夏子が一方的に話してくる。しかし、また妙なことを仰ってくれるものだ。
「すでに、そうなってるよ」と高見沢は反発したかった。しかし、それを言ってしまえば、あとが面倒なことになってしまう。そのためか反射的に、「あぁ」とだけ返した。
 だが、高見沢は思った。これじゃまるでドラマの中の男と一緒じゃん。だけど男って、「あぁ」という返事しか持ち合わせていないんだよなあ、と。思わずぶっと吹き出した。
「あなた、どうしたのよ?」と夏子が訝る。高見沢はいつもの妻への口癖で、謝る理由もないのに「ゴメン」とまず一言、そして後を続ける。
「夏子に言い忘れてたことがあるんだよ。それは……新(あらた)しき 年の始めの 初春の 今日降る雪の いや重(し)け吉事(よごと)……だよ」
「それって、大伴家持の……雪が降り積もっていくように、今年も良いことが重なりますようにってことでしょ」
「そうだよ」
「そのためには、あなた、今年もお仕事頑張ってちょうだいね」
 どうも夏子の方が一枚も二枚も策士のようだ。高見沢はやんわりと発破をかけられた。こんな状態に少し間をおくため、高見沢は窓際へと移り、カーテンを開けた。
 いつの間にか外は真っ白に。
「雪だよ」
 高見沢がぽつりと呟く。それに夏子がケイタイの向こうから囁く。
「私たちの『いやしけよごと』が実り、ドラマの夫婦のように、幸せになりましょうね」
 これに高見沢は、正月早々、力強く答えるしかなかったのだ。
「ああ!」と。


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このストーリーに関するコメント

12/12/15 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

そうそう、男はんは、「ああ」とか「まあな」とかしか答えないものです。でも答えを返される高見沢さんは、偉いです。
私の同居人は、答えが返ってこないなんてざらなんですよ。テレビなど見ています時は、特にそうなる傾向にあります。どうしようもできません……困っています。(苦笑)

12/12/16 石蕗亮

鮎風遊さん
拝読いたしました。
いつも味のある夫婦物語を見事に書き上げていて感心いたします。
私も深夜から一眼持って出かけるくちです。
うちの場合立場が逆です(笑)

12/12/16 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

長年連れ添った夫婦ってこんな風に素っ気ないものですよ。
たぶん、言葉は要らない「あ・うん」の呼吸で分かるんでしょう。

こういう夫婦が幸せな夫婦だと思いますね(笑)

12/12/17 そらの珊瑚

鮎風遊さん、拝読しました。

いつもは空気のようにあたりまえになっている夫婦関係が、
やはりなくてはならないものであると
再認識できたお正月としたら、幸せですね。

13/11/29 鮎風 遊

草藍さん

コメントありがとうございます。

「ああ」
「あなた、私の話し聞いてんの!」

この会話が繰り返され、月日は流れて行くようでして。

13/11/29 鮎風 遊

石蕗亮さん

コメントありがとうございます。

立場、逆ですか。
それも味わいがありますね。

13/11/29 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。

あ・うんの呼吸ですか。
いいですね。

だけど、時々、見事に外れたりもしますが。

13/11/29 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

コメントありがとうございます。

そうですね、再認識できたらいいですね。

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