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17/11/25 コンテスト(テーマ):第148回 時空モノガタリ文学賞 【 ホラー 】 コメント:0件 スイカ 閲覧数:406

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 着慣れない喪服に身を包み、男は友人宅――正式にはその実家――の玄関を出た。広い庭には挨拶が終わったのか何組かの人間が立ち話をしている。
 友人の訃報を聞いた時は驚いたが、不思議とそれほど悲しい気持ちは湧かなかった。親しくなかった訳ではない。むしろ親しい間柄だった。彼の家に遊びに行ったことも一度や二度ではない。
 本来なら悲しむはずのところなのだが、何となく彼とはもう会えない予感がしていたのだ。
「聞いた? あの人、交通事故に会う前に行方不明だったんだって」
「見つかったと思ったらいきなり死んじゃうんだもん。可哀想ね。あ、そういえばここのお兄さんって――」
 大して親しい間柄ではないのか、話題は故人の話からすぐに別の話題へと移る。
 ――まあ、こんなもんだよな。葬式なんて。いつになるか知らないけど、俺の葬式もこんなもんだろうな。きっと。
 そんなことをぼんやりと考えながら男は帰路へと足を運ぶ。まっすぐ帰るか、軽く食事でもするか。どちらかに決定する前に男は思考を打ち切った。いや思考が止まった。目の前に立つ一人の老人を前にして。
 その老人は何から何まで黒い老人だった。年齢を感じさせない真っ黒な髪と同色の目。日焼けという健康的な黒さとは真逆の、焼死体を連想させる不気味な黒い肌。喪服に身を包んだ老人は、じっと感情の感じられない両の目を男へと向けていた。
 ――なんだ?
 訝しむ男を意に介した様子も見せず、老人は彼との距離を躊躇なく詰めてきた。
「鍵をあげましょう」
「は?」
「鍵をあげます」
 目の前に立つなり一方的に宣言する老人。骨と皮だけになった手をゆっくりと広げると、そこには一本の薄汚れた鍵があった。
「鍵をあげます」
 ――何なんだコイツ?
 最初から会話をする気が無いのか、老人は壊れた機械の様に同じ言葉を繰り返す。
「鍵を」
「い、いや、いらない。何なんだアンタは」
 そう言って来た道を引き返そうとする男の背中に、老人が言葉を投げかける。
「皆さんそう言いますが、悪いことは言わない。受け取っておきなさい。代金ならもう頂いていますから」
「それはどういう」
 振り返ろうとした瞬間、老人が男の手を取り鍵を握らせる。咄嗟のことに握らされた鍵へと視線を落とす。
「なにを……あれ?」
 文句を言おうと老人を睨もうとするが、すぐ近くに立っていたはずの老人は影も形も残っていなかった。
「何なんだよ。ホントに」
 背筋に寒いものを感じながら、男は無理やり握らされた鍵へと意識を向ける。持ち手の部分が多少凝ったデザインになっているが、鍵自体はどこにでもありそうな形状だ。
 ――はて?
 なんとなくどこかで見たことがあるような気がして男は記憶を漁る。何か手がかりは無いかと鍵を裏返し、
「何だコレ?」
 裏面にこびり付いた血染みのような汚れに、男は不快そうに眉をひそめた。記憶の検索をやめ、彼は鍵を力一杯投げ捨てる。
「気持ち悪い」
 汚れを払う様に手を振り、男は足早にその場を後にした。


 それから数日後、男は見知らぬ部屋で目を覚ましていた。窓のない、四方を壁で囲まれた小さな部屋。壁以外のものといえば、殺風景な部屋に似つかわしくない凝ったデザインのドアが一つ。
 どうして自分がこんなところに居るのか、男は気怠い頭で状況を把握しようと思考を巡らせる。直前の記憶では自室のベッドで横になっていた。そこまでは覚えているのだが。
 ――誘拐? そんな馬鹿な。俺を誘拐して何になる。なら、まさか夢か?
 あれこれと可能性を考えてはみるが一向に答えは出てこない。男は苛立たしげに頭を掻きむしると部屋の確認に移った。といっても、調べられる場所など一つしかない。
 ――どこかで見た、か?
 眉をひそめながらドアノブに手を掛け捻る。が、ドアノブは鈍い金属音を立てただけで彼を通してはくれなかった。
「くそっ」
 悪態を吐きながら何度となくドアノブを回すが結果は、変わらない。怒りを込めてドアを思いっきり蹴り付けるが、ドアはビクともしなかった。
「鍵なんて掛けんなよ」
 うんざりと吐き捨て、男は疲れた様子でその場に座り込んだ。
「たく、無駄に洒落たドア付けやが、て?」
 不思議そうに首を傾げ、男は改めてドアを観察する。最初に見た時から妙な既視感を覚えてはいたのだ。こんな部屋来たこともないのに。
 じっと見つめていた男は、はたと何かに気付いた様子で呟いた。
「……アイツの家のドア、か?」
 数日前に亡くなった友人の顔を思い出しながら、彼は不気味な老人の言葉を思い出していた。
「悪いことは言わない。受け取っておきなさい。代金ならもう頂いていますから」
 ――代金。アイツは確かにそう言った。代金、代金だと?
 何かに男が思い至る直前、甲高いブレーキを踏む音が狭い室内に響いた。


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