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瀧上ルーシーさん

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性別 男性
将来の夢 プロ作家になること。
座右の銘 犬も歩けば棒に当たる。

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カレー弁当

17/11/22 コンテスト(テーマ):第149回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:6件 瀧上ルーシー 閲覧数:503

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 高校で午前中の授業が終わり昼休みになった。仲間達二人と机をくっつけて、昼食を取る。ぼくの昼食は学校ではいつも弁当だった。仲間は一人がいつもパンでもう一人はぼくと同じく弁当を家から持ってきていた。
 仲間達と話しながら、机の横に下げている鞄から弁当を取り出すと、弁当包み代わりのバンダナをほどいていった。ほどいている途中で気がついた。この独特の臭いはカレーしかあり得なかった。今更弁当を持って逃げるわけにもいかず、ぼくはスプーンでカレー弁当を食べはじめた。このカレーは昨晩の夕食の残り物だった。ご飯も炊きすぎた米をレンジで一度チンして温め直したものらしい。
 教室のぼく達がいる辺りがカレー臭くなり、クラスの面識のない女子達がクスクスと笑う。さっさと食べ終わらせて鞄にしまおうと考えて、早食いしていると不良で有名な生徒がぼくの隣に来た。彼はさらさらの長髪をしていた。
「カレーって……夕食の残り? お前ん家貧乏なの?」
 無視すると後が怖いのでぼくは答えた。
「そうだよ。でもすごい貧乏ではない」
「ふうん、まあがんばれよ」
 午後の授業中、不良に言われた言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。「まあがんばれよ」あいつはどんなつもりでそんなことを言ったんだ? カレー弁当を学校に持っていったくらいでぼくに同情するのか? それとも貧乏の方に同情したのか? ぼくはお前より遙かに偏差値が高いし、お前は今を楽しんでいればいいけど、大学を卒業するような年齢になれば立場は逆転するのだからな。ぼくは午後の授業をいっぱい使って頭の中で不良に文句を言っていた。
 その日は帰りのホームルームが終わると、一人でまっすぐ家に帰った。まだ誰も家には帰ってきていなくて、部屋で勉強して時間を潰した。ぼく達家族の携帯はみんなガラケーだし、インターネットをしたかったらだいぶ昔のパソコンを使うしかない。しかも一台しかなく家族共用だった。
 辺りが薄暗くなってきた頃に母親が玄関のドアを解錠した。パートから帰ってきたのだ。ぼくは階段を下りて母親を出迎えると言ってやった。
「弁当にカレーなんか入れないでよ!」
「はあ? あんたカレー好きでしょ。何の問題があるの?」
「教室で食べるんだから人の目とかがあるんだよ。臭いもきついし」
「なら自分で作りなさい。お母さんあんたの弁当もう作らないから」
「いいよ、昼食抜きくらい我慢できるし」
 翌日、ぼくは弁当代わりにもう何度も読んでいる漫画本を数冊鞄に詰めて、食卓に下りると朝食を食べていった。牛乳を飲むと腹が下ってトイレへと駆け込んだ。
 そうして少しの時間家で過ごすと学校まで登校していった。
 昼休みになり、仲間二人が食事を食べているところ、ぼくは漫画を読んで時間を潰そうとした。だがどういうわけか鞄の中には四角い箱が入っていた。弁当包みの隙間には封筒まで添えられている。ぼくは封筒を退けて、弁当を机の上に置いて蓋を開けた。卵焼きにウィンナー、エビ寄せフライにミートボール、南瓜の煮物、ご飯の上にはふりかけがかかっていた。
 ぼくは母親が作ってくれた弁当を味わいながらそれでいて早く食べ進めていった。食べ終わると、トイレの個室に入って手紙が入っているだろう封筒を開けた。

「お母さんだけど、そこまで考えが及ばないでごめんね。教室でカレーの弁当なんて見られたら恥ずかしいよね。
 今度から夕食の残りを詰めるのは一品か二品くらいにして、なるべく朝作ったおかずを弁当に入れます。
 勉強がんばってください」

 それを見て、ぼくは罪悪感を覚えると同時に母親の大きな愛情を感じた。
 学校が終わり、その日も一人で家に帰ってくると部屋の中をうろうろしながら母親が帰ってくるのを待った。
 母親が帰ってきた。ぼくは有無を言わさずに居間まで連れて行って座らせて、彼女の疲れた肩を揉んであげた。
「お母さん、いつもありがとう」
 彼女は照れたように言う。
「あんた、まだガキなんだから、お母さんとお父さんにもっと甘えていいんだよ。弁当のことも言ってくれて良かったよ。それが原因でいじめられて学校行かなくなったら大変だからね」
「手紙もありがとう」
「そりゃあ、良かった。もういいよ、ありがとう」
 ぼくはお母さんの肩から手を退かすと、自分の部屋へと帰っていった。
 お母さんのためにも将来いい大学に入っていい会社に就職して親孝行してやるのだ。それが今のところぼくの一番大きな目標だった。


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このストーリーに関するコメント

17/11/22 瀧上ルーシー

大和さん、感想ありがとうございます!
昔、職場でコンビニで売ってるカレーを食べていたら「カレーくさっ」と言われたのと、学生時代を振り返って、見られるのが恥ずかしい前の晩の残り物が入っている弁当よりは学食を使いたかったなあと感じていたことを思い出して書きました。
面白いと言ってくださって嬉しいです。

17/11/25 文月めぐ

『カレー弁当』拝読いたしました。
息子に拒まれても弁当を作った母親。彼女の健気さを想うと泣けますね。

17/11/25 瀧上ルーシー

文月めぐさん、感想ありがとうございます!
実際に身近で起きた出来事を書いたわけではありませんが、世の中にはこれくらい仲が良い親子もいるのだろうなあと思い書きました。健気ですよね。重ねてありがとうございました。

17/12/13 カンブリア

たしかに思春期というのは、大人になってから考えてみると、
何であんなことが恥ずかしかったのかよくわからないことに抵抗を感じるものです。
弁当をそこに結びつけた着眼点が面白かったです。

17/12/14 瀧上ルーシー

志水孝敏さん、感想ありがとうございます。
思春期を描けているのなら良かったです。自分のその時期を考えると、今思えば恥ずかしいこともしたし、わけのわからないことに拘っていたかもしれません。
着眼点も褒めてくださってありがとうございます!

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