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井川林檎さん

ネット小説を書いております。 PR画像はコハ様の書です。
性別 | 女性 |
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将来の夢 | 小説をずっと書き続けていたい。 |
座右の銘 | 人は人、自分は自分。 |
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将来の夢 | 小説をずっと書き続けていたい。 |
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課長は仕事もできて、女子社員からの受けもよい。
しかも奥さんが良い。社内結婚なので、みんな奥さんのことを知っている。美人で、乳が良い。
社服のベストのふくらみは、普通より少し小ぶり。
形が美しい。あれは稀に見る神乳。
透けるような美肌。
課長と結婚し、退社した彼女(の乳)。
当時俺は、のたうち回って苦しんだ。
あの乳は、もういない。
焦がれるあまり、俺は課長を見る度に、美乳を思った。
毎日課長の顔を見て、仕事の指示を受け、お叱りを受ける際、むらむらした。
「A君、今日はプレゼン、頼むよ」
「了解です(むふぉっ)」
課長の顔は、美乳を連想させる。
課長の叱る声は、美乳が左右上下暴れているかのよう。
42歳、女の子のパパ。課長と美乳。俺だけの妄想。
課長は愛妻弁当持参だが、時々娘の弁当と間違えて持ってきた。
「女房が間違えたんだ」
うさぎやくまのキャラ弁だ。
「ちょっと食べてみるか」
そんな時、課長は決まって、おかずを分けてくれる。
「酷いよなあ」
そう言いながらも課長は、幸せ全開で、ちまちま弁当を摘まんでいた。
ある日、課長の奥さんが第二子を出産した。
奥さんは別の会社に再就職したばかりだったから、育休を心行くまで取るわけにはいかなかったらしい。
「近くに、生後二か月から預かってくれる保育園があってね」
課長は零した。
「そこに預けて、仕事に行っているよ」
娘とパパの弁当を作り、赤ちゃんを預けて仕事に出る。
女は偉いなあ。課長は言った。
俺はむらむらする心を必死で押さえた。
課長、奥さんに惚れ直してやがる。
「無理するなよ」
奥さんを労わりながら、夜になったら無理するなもヘチマもないだろう。
くそっ。
それでも俺は、課長の顔を見れば、美乳を妄想する。
課長の声で情熱に点火。
ぼいんぼいん縦に横に上に下に右っ、左っ、右っ、左っ。
(妄想の美乳様が荒ぶる)
ある昼休み。
課長は弁当を開いた。
そして、表情を変えた。目が点になり、眉が吊り上がった。
「間違えてるっ」
思わず言ってしまったのだろう。課長ははっとして、周囲を見回した。
オフィスで弁当を食べている社員は、そういない。課長のほかは、俺と数人の野郎ばかりだ。
一番席の近い俺が、お子さんの弁当ですか、と覗きに行った。
あわよくば、あの美乳が作った弁当を一口味わいたいが為。
これまで何度か俺は、課長の娘さんのキャラ弁を味見させてもらった。その度に妄想の美乳様の輝きが増した。
甘い味付けの、愛らしい弁当よ。
だが、その日、課長は「食べるか」とは言ってくれなかった。
赤い顔をして、俺から中身を護るように蓋をしめかけた。
だが俺は、弁当箱の中身をしっかりと見てしまった。
アルマイトの弁当箱に入っていたのは、いくつかの平べったい白いもの。
(なんだこれ)
と、思ったが、ふいに俺は勘付いた。
保育所に預けた赤ちゃんのための弁当。
これは、冷凍母乳だ。
そう思った瞬間、全身がウルトラダイナマトファイヤーとなった。
ホット、ホット!
(あの)
ぶるるん、縦っ、横っ、上っ、下っ!
(美乳から出た)
右っ、左っ、交互っ、同時っ!
「交換して下さい」
俺はコンビニ弁当を差し出した。目の前にあるこれは、まさに美乳そのもの。これを喰らう事は、俺自身が乳になるに等しい。
課長は目を剥いた。
妙な空気を感じて振り向くと、オフィスに残っていた野郎どもが皆、課長の手元に視線を集中させている。
(皆、勘付きやがった)
皆、課長の持ってきたものを早くも嗅ぎつけた。そして俺同様、むらむらしている。つまり、皆、あの美乳に焦がれた仲間。
「課長、俺の弁当もどうぞ」
「課長、俺のカップ麺も」
一口でいい。
その、半分とけた冷凍母乳を齧らせてもらえれば、俺らは生きられる。
課長は俺たちを見回すと、やがて弁当箱のふたをあけ、冷凍母乳のパックを手元でちぎって開いた。
からんころん。
弁当箱の中に凍った母乳が転がる。
おすそ分けをくれるのだろうかと期待が高まったのも、一瞬。
次の瞬間、課長は弁当箱に口をつけ、一気に冷凍母乳を頬張った。
ばぼりぼりぼり。
ごっくん。
痛々しい沈黙の末、課長はろれつの回らない舌で、こう言った。
「しょうもなくて、まずい」
大事なことだと考えたのか、課長は同じことを五回くらい言ってから、おもむろに立ち上がった。
外出するらしい。
コンビニ弁当でも買うのだろうか。
俺たちは皆、なんとも言えない思いで目を見合わせたのだった。