宮下 倖さん

宮下 倖です。 楽しくたくさん書いていきたいです。

性別 女性
将来の夢 誰かの心にひとつでも響く言葉が紡げたら幸せです。
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姉妹

17/11/20 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 宮下 倖 閲覧数:331

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 わたしの姉は迷いのない人でした。
 子どものころからずっとそうで、決断力に富み、何事もてきぱきとこなす姿は爽快でした。
 それに比べ妹のわたしは迷ってばかりで、ひとつ決めるにもひどく時間がかかるのです。双子なのにこうも違うのかと両親でさえ苦笑するほど正反対の姉妹でした。
 たとえば家族でスーパーに買い物に出かけ、母から「なにかひとつだけ買ってあげるから持ってらっしゃい」と言われたとき、姉はすぐに決めることができます。
 けれどわたしは、キャラメルの箱を手にとって眺めては棚に置き、チョコレートの外袋のイラストに見惚れてはぼーっと通路に立ち尽くし、一向に決めることができないのです。
 結局「決められないなら今日は買わないわよ」と母に呆れられ、わたしだけ買ってもらえないこともしばしばでした。
 長じてからもわたしのそんな性格は変わりませんでした。
 はきはきと明るい姉は誰からも好かれ友だちも多いのですが、おっとりしすぎるわたしは姉の後ろで笑っているだけで精一杯なのです。
 それでもわたしたちは仲のいい姉妹でした。互いに違いすぎるので、何かにつけて張り合うということがなかったからでしょう。
 不思議と高校も大学も同じところを選びました。
 姉はなにかの啓示のようにパッと決め、わたしは相変わらず何日も何日もかけての決断でしたが。
 さすがにこのころになると、わたしも焦りを感じることがありました。
 なにかを決めるたびに毎回こんなに時間をかけるのは人生の無駄遣いじゃないかと。姉が直感的に下す答えと、わたしが呆れるほどの時間をかけて出す答えが同じなら尚更です。
 大学を卒業し、就職をしても悶々と悩み続けたわたしでしたが、ひとつだけすぱっと決めたことがありました。
 結婚です。
 二年間つき合った恋人と先月式を挙げました。両親はもとより、友人知人も驚きを隠しませんでした。姉なら電撃結婚もわかるがまさかわたしが……といったところでしょう。
 結婚しようと決めたときの自分のことは今でも不思議な感覚の中にありますが、気もちははっきりしていました。
 恋人が交通事故に遭い病院に救急搬送されたとき、それをわたしが知ったのは翌日だったのです。仕方のないこととは思います。でもわたしは、彼がそういう状況に陥ったとき真っ先に連絡をもらえる存在になりたかった。だからわたしから彼と家族になる話を出したのです。
 まったく迷いませんでした。頭の中に一条の光が射したように思考がクリアになり、もうこれしかないという心もちになったのです。
 それはひどく快感で清々しい感覚でした。
 いろいろなことをすっぱり決めてきた姉の感覚を少し味わったようにも思えました。
 さて、新婚となったわたしのもとを姉が訪ねてきました。お茶を飲みながらふたりで話をしましたが、姉の様子がいつもと少し違っていました。
「さっちゃん、なにかあった?」
 わたしがそう訊くと姉はちいさく「迷ってるの」と言いました。
「なにを?」
「彼にプロポーズされたんだけど、結婚していいのかなって……」
 驚きました。いつも即断の姉が心細そうにわたしの顔を見ているのです。姉は続けます。
「ちいさいころから私のほうがさっさといろんなことを決めてきたけど、本当はいつも、これでいいのかなって不安だったの。でも、じっくり考えたなっちゃんが後から同じ答えを出してくれると、ああよかったんだって安心したんだ……」
 姉は何度もため息をついています。こんな姉は初めてです。
 わたしが迷って迷って出した答えが姉を支えることもあったなんて思ってもみませんでした。
 このときわたしは猛烈に「姉妹」であるということを実感していました。似ていないようで、でも魂の根っこは深くつながっているたったひとりの双子の姉。大好きなさっちゃん。
 頼りないかもしれないけど、いくらでも相談にのるからね。
 なんといっても迷うことにかけては、わたしはさっちゃんより経験豊富なんだから。


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