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みやさん

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迷いウサギ

17/11/20 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 みや 閲覧数:308

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小学校の始業時間の一時間ほど前に登校するのが、四月から新卒の教員としてこの小学校に赴任し、二年生のクラスの担任を任されている私の日課となっていた。登校したらすぐに校庭の隅っこにあるウサギ小屋に向かい、ウサギに餌を与える。朝早くに子供達を登校させて餌やりをさせる事は保護者からの反発があるので担任の私の役目になっていた。
今日も私は朝一番にウサギ小屋に出向き、ウサギ小屋の鍵を開けようとしたら、鍵が施錠されていなかった。昨日の飼育当番の子供が夕方鍵を閉め忘れたのかと思い扉を開けると、居るはずのウサギが居なくなっていた。扉から出て、何処かに逃げ出してしまったのか…私は焦って迷い子のウサギを探し始めた。

教育の一環で子供達に動物の世話をさせる、という方針が私には初めから鬱陶しかった。動物の世話をさせる事で命の大切さや尊さを教える事が出来るのかと考えると、無理な様な気がしていたからだ。小学二年生の子供達はウサギの事を可愛いとは思っているだろうけれど、可愛いと思う気持ちなど最初だけで、餌やりや糞の始末、ウサギ小屋の掃除に子供達はウサギの世話を始めて半年たった今では明らかに飽きてしまっている様だった。

私のクラスにウサギを提供してくれたのは、私の指導員でもある教頭先生だった。他のクラスでは金魚やカエルなどを飼っていて、教室で飼育出来る生き物が私も良かったのだけれど、教頭先生のお嫁に嫁がれたお孫さんが飼っていたウサギを皆んなに可愛がって欲しいと私のクラスに提供してくれた。
そのウサギはウサギに詳しくない私は良く知らなかったけれど、垂れ耳のホーなんとかとフワフワの長毛のフレンチなんとかと言うウサギを交配した通称アメファジと呼ばれているとても可愛いウサギだった。名前はハリーで、教頭先生のお孫さんがハリーポッターが好きだからと言う理由だった。

飼育当初、ハリーと言う名前を変えて自分達で別の名前をつけたいと言う子供と、今のハリーという名前が良いと言う子供達とで意見が別れた。私は迷った。自分達で名前をつけたいと思う気持ちも分かるし、別の名前で呼ばれるウサギの戸惑いも分かる。迷っている私に教頭先生が助言してくれた。「多数決で決めてはどうですか?」
多数決で名前はハリーのままで決まった。飼育当番を決める時も意見は真っ二つに分かれた。誰かに当番を決めてその子供だけが世話をするのか、当番制にして順番に世話をするか…
ウサギが可愛いと思う気持ちは皆んな同じだけれど、世話をする事とは別の問題だった。触ったり撫でたり可愛がりたいけれど、掃除や餌やり等の面倒臭い事はしたくないと言うのが子供達の本音だった。私はまた迷った。誰かに決めてしまうとその子供だけに負担がかかるし、当番制にすると子供達の生き物を飼育するという行為がますます嫌な事になるのではないのだろうか…私はまた迷ったけれど、名前の時と同じく多数決を取った。結果は当番制となり、日直係がウサギの世話もする事に落ち着いた。子供達が平等に世話をする事になり安堵したけれど、丁寧に世話をする子供もいれば、適当に世話をする子供もいて私は無理に世話をさせる事に意味があるのかとも感じていた。

校庭中を迷い子のハリーを必死で探している私の目の前に大きめのケージを持った教頭先生が現れた。中にはハリーの姿が確認出来た。
「教頭先生!良かった…ハリーが迷い子になったかと思って心配してたんです」
「心配させてしまって申し訳ない。十月に入って朝晩は気温が下がってきたので、そろそろハリーを屋内で飼育した方が良いと思いましてね」
「そうだったんですね。ハリーが居なくなった事を子供達にどう説明すれば良いのかと考えていて、鍵を掛け忘れた昨日の飼育当番の責任になるのかと思うと…本当に良かったです」
「ハリーは私が今日家に連れて帰ろうと思っています。寒い季節は屋内で飼育しなくてはいけませんし。教室内で引き続き飼育する事も可能ですが」

私はその事を子供達にどう説明しようかとまた迷った。ハリーが居なくなると世話をしなくて済むと喜ぶ子供達もいれば、ハリーが居なくなる事を寂しがる子供達もいるだろう。
「先生は迷われていますね。迷いは伝わります、例え小さな子供だとしても」
「私の迷いが…」
「指導員である私の責任でもあります。先生を迷わせてばかりで本当に申し訳ないです。どうされますか?引き続きハリーを教室内で飼育するか、私が持って帰るか…また多数決を取りますか?」

多数決で決定する事が楽な事はもう私も分かっていた。賛成票が多い意見が適用され少ない反対票の意見は却下。それが社会のルールかもしれない。けれど…それだけで解決してしまって本当に良いのだろうか?

「話し合います。皆んなで…皆んなで」
「とことん話し合って下さい」
教頭先生はにっこりと微笑んだ。


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