甘味処さん

小説家を志している青二才、甘味処と申します。 主に『小説家になろう』というサイトで活動しております。http://mypage.syosetu.com/149799/

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将来の夢 小説家
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12/12/14 コンテスト(テーマ):【 箸 】 コメント:0件 甘味処 閲覧数:1595

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「そうだ、箸をプレゼントしよう」

 朝起きて、初めに放った発言がそれだった。理由というのも、奇妙な夢を見たからだ。夢にはおじいさんが出てきた。そのおじいさんに言われたのだ。
『彼女のプレゼントは箸にするといい。そうするといい。彼女もきっと喜んでくれるさね』
 よく見ると、どこかで見たことのあるおじいさんだった。どうしてあなたにそんなことを言われなくてはならないのか! と言い返そうとしたが、夢の中で声は出せなかった。
「箸をプレゼントしよう」
 僕は同じ言葉をもう一度繰り返した。そのおじいさんの偉ぶった態度がむかついたけれど、確かに、それはいい考えかもしれない。あっさりと彼のアドバイスを受け取ることにした。
 なにしろ、彼女はリサイクルやごみの分別にとてもうるさい人だった。最近では、マイ箸というものが流行っているらしい。外でご飯を食べる時に自前の箸を使用するのだ。その理由は環境のため、極力、割り箸を使わないようにするためだった。プレゼントすれば、きっと持ち歩いてくれるに違いない。
 それだけではなく、彼女は箸の使い方にも厳しかった。彼女が作ってくれたお弁当を僕が食べる時、いつだって口やかましく説教をされたものである。
 とにかく、箸をプレゼントすれば間違いない気がした。



 僕は早速家を出て、近くの商店街を歩いた。三十分もしないうちに、それらしい店を発見した。驚くべきことに、箸だけを並べた店らしい。店内には、子供用の箸から高級な箸まであった。色々と迷ったけれど、僕は決死の思いで全財産を叩いて、できるだけ値の張った箸を購入した。
 喜んでくれるだろうか、胸を弾ませながら彼女の家に向かった。



 彼女の手にそれをそっと渡すと、涙を流してまで、喜んでくれた。目を覆う両手から一粒の涙が覗けた時は、さすがにぎょっとしたけれど、すぐ僕を抱きしめてくれたので、僕は心から安心した。あのおじいさんの言葉は間違っていなかったんだ。胸の中でガッツポーズを繰り返しおこなった。
 彼女は目じりにしわをよせて、僕に微笑みかける。手に取ったハンカチでぬぐったけれど、まだ目の端には涙が溜まっていた。
「……ありがとう、おばあちゃん、とっても嬉しいわ」
 照れくさくなった僕は顔をそらす。
「敬老の日だからさ、なにか贈ろうと思って、色々考えたんだけど――」
 ――僕の小遣いじゃ大したもの買えなかった、そう言うと、優しい気持ちがとても嬉しいんだよ、と言いながら、ぎゅっと抱きしめてくれた。おばあちゃんの着物の匂いは好きだ。
 ありがとう、ありがとう、と何度も感謝された。僕はその度に照れくさい気持ちになって、目を逸らしたりとした。
「あ……」
 逸らした視線の先であるものが見えた。小ぢんまりとした和室の隅っこに置かれた仏壇。そこに飾られている遺影へ目をやって、僕は気付いた。
 不思議なことに驚きはしなかった。そんなことだろう、と子供ながらに思っていたからだ。
「そういえば、夢におじいちゃんが出てきたんだよ」
 おじいちゃんは僕が生まれる前に亡くなったので、顔をよく覚えていなかったけれど、間違いなく遺影に写った人こそ、夢で見たあのおじいさんだったのだ。
「おばあちゃんには、箸を買ってやるといいってさ」
「そうかいそうかい。あの人が……」
 寂しそうであり、嬉しそうな顔をしたおばあちゃんは、不思議なこともあるものだ、と呟いていた。これは私のだからね、あんたにはやらないよ、とも仏壇に向けて声をかけている。仏壇の上のおじいちゃんは、どこか切なそうな顔をしているように見えた。
 おじいちゃんはひょっとすれば、本当は自分の仏壇に添える箸が欲しくて、僕の夢にわざわざ出向いたのかもしれない。そんな想像をするとおもしろい。
「じゃ、おばあちゃん。僕、もうそろそろ帰るね」
「本当にありがとう。大切に使うからね」
「うん」おばあちゃんが笑うと、胸に溜まっていたものがすぅーと浄化されていく。
「あ、そうだ」
 おばあちゃんは引き出しから財布を取り出し、その中から一枚の小銭を僕に渡してくれた。おばあちゃんは僕が遊びにいくと、いつも50円をくれるのだ。お小遣いを全額使ってしまったので、本当はとても欲しかったけど、今日は遠慮することにした。

「その優しい気持ちがとても嬉しいんだよ」

 とおばあちゃんを真似て、少しませた言い回しをしてみる。すると、おばあちゃんはしばらくきょとんとした顔で驚いていた。その後、すぐに歯を見せて笑った。つられるように僕も笑った。



 帰り道に伸びる僕の影は、お化けみたいに間延びしていて、僕を脅かそうとするけれど、僕はお化けよりもお母さんの方が怖い。なので怯えることなく、帰り道を急いだ。
 来年はなにをプレゼントしようかな、などと一年後の僕を想像していた。


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