土井 留さん

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NGC292

17/11/18 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 土井 留 閲覧数:359

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 超光速通信のアプリケーションが作動しない。
 発電機能が損傷したために、せいぜいワープ2回分のエネルギーしか残っていない。
 何よりも、ナビゲーションシステムが破壊されて現在位置が把握できない。
 亜空間に移動した際に時空振に見舞われ、宇野旅人のCX505は超光速宇宙船としての機能を半ば喪失した。幸運にも亜空間に飲まれることは回避したが、目的地とは全く別の座標にはじき出され、機体は大きく損傷している。 
「鉛筆を転がして方向を決めたら、運よく通話圏内に入る可能性はどのくらいだろう?」
 旅人はひどくアナログな解決策を考えた。
ワープ航法だと空間を飛び越えるので、距離を誤ると目的地を大きく離れた座標に行ってしまう。光年単位で移動するのだから、サイコロのような大雑把な決め方をして、もし首尾よく人間の生活圏に到達したら奇跡であった。
「考えるだけ無駄ですね。」
 旅人のぼやきに航行用AIのSAL10が答えた。
 実は、こいつは分かっているのだ。
 コンピューターなのだからコンマ以下数百億桁の確率計算ができる。ただ、SAL10はそれをあえて口にしない。宇宙航行の時代のAIは、頭脳明晰さを表に出さないという嫌らしい人間性を身に付けている。そして皮肉っぽい性格は旅人が趣味で設定したもので、SAL10の責任ではない。
「救助を待つしかないかぁ。」
「それがいいでしょう。現在位置がわかれば最寄りの到着座標を割り出せますが、星図のデータベースが壊れてしまったのでそれもできません。」
 旅人はふと、SAL10がデータベースとつながっていることに気が付いた。
「重要なデータがなくなっても、君が無事でぺらぺらしゃべり続けているのは不思議な感じがするね。」
「実を言うと、今しゃべっている私は半分バックアップです。」
 旅人は口に運んだコーヒーカップの手を止めた。
「大丈夫か。止まったりしないだろうな?」
「ワープや急な事故がなければ。修復機能が働いているので、3日後にはワープしても支障がない状態に持っていけます。ですが、欠損してしまった部分は直せないので、現在位置は分からないままです。」
 その3日が過ぎ、さらに4日が経過したが、救助は現れず、状況は特に変わらなかった。
「まいったな。このままだとプレミアムが溜まってしまう。」
「保険である程度カバーできますけど、あと7日日間救出されなかったら、金利が払えなくなりますね。」
 宇宙では時間の価値が高い。いわゆる「ウラシマ効果」で、例えば宇宙の3日が惑星の1週間に相当することもある。この時間差に関連した金利の支払は「時間プレミアム」と呼ばれ、宇宙ビジネスが破たんする大きな原因の一つになっている。
「破産したくなかったら、とりあえず動くのも手かな。」
「手がかりがないうちは無理ですよ。少なくとも救助を呼べるところに行かないと、発見される見込みが下がるだけです。」
 外部センサーにわずかな反応があったので、旅人は船外の画像を拡大した。
「なんだろう?有機体の反応がある。」
 大写しにした船外画像には、帯状の霧のようなものが映し出されている。
「極めて珍しい現象ですね。非常に単純な有機体が、鉱物の殻につつまれて埃のような形で宇宙を漂っています。」
「つまり、生命の種みたいなものか?」
「ええ。その通りです。宇宙空間における生命の「渡り」ですね。」
 旅人の頭にちょっとしたアイディアがひらめいた。
「渡り、ということは、特定の星や銀河から別の星に移るということ?かなり珍しい現象なら、採集して成分を調べたら現在位置の手がかりになるかもしれない。」
 解析してみると、その現象は小マゼラン雲の一部で近年発見され、ある恒星の周りを周回していることが分かった。
「これで、大体の現在位置と向いている方向が分かったわけだ。」
「ワープ航法の座標設定に充分な情報とは言えませんが。」
「しかし、通常電波が届く範囲に入り込むことはできるかもしれない。2回分ワープできるんだろう?1回目でわかりやすい恒星の近くに出て、2度目のワープで補正すれば、可能性はあるな。」
「なお、ワープ中の事故から救出にかかるまでの時間は、平均10日というところです。目安にしかなりませんが、もう少し待てば、破産前に救出されるかもしれませんよ。」
 旅人はしばらく考えた。
「仮に今ワープで通常電波が通じる位置を目指すとしたら、首尾よく目的地に達する可能性はどのくらいだ?」
「60%というところですね。」
「救出される可能性も似たようなものかな?」
「そのとおりです。救出される可能性の方がやや高くなりますが。」
 飛ぶか待つか。旅人は腕を組んだ。
 宇宙船の外には、何億年か後に生命を生み出すかもしれない宇宙の雲が流れている。


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