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デーオさん

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黒いあいつ

12/12/11 コンテスト(テーマ):第二十回 時空モノガタリ文学賞【 お正月 】 コメント:0件 デーオ 閲覧数:1543

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【お】きたのは昼近くだった。外でクワン!クワン!という犬の鳴き声がする。ここはペット可マンションだから玄関の外で鳴いていても不思議じゃない。でも、なんだか不器用な鳴き方だ。どこの部屋の犬だろう。

「おい、何もあげていないのに(食わん!食わん)とは、どういうことだ」とつぶやいて、オレは布団にくるまったまま外の鳴き声の主がエサにそっぽを向いて「食わん!」と言っている想像をする。

また、クワン!と鳴く。あれっ、やたら高い位置から聞こえる。「おい、位置の違いじゃなく何もあげていないということだぞ」と言ってから気がついた。推定高さ180センチ。おい、お前は巨大犬か? それともスパイダーマンのようにドアにへばりついているのかい? で、どうしてオレの部屋の玄関前なんだ? オレはやっと起き上がる決心がついた。

そうだ、分厚い新聞紙の束と、そろそろ年賀状も来ている頃だろう。ついでに犬の正体もたしかめないとな。オレはしっかりと防寒着を着て、玄関のドアを開けた。


【正】体は、想像さえしてなかったものだった。オレが玄関の戸をあけると真っ黒なものが動いた。オレの貧困なあるいは変な想像力では、キリンのような首の長〜い犬か、ヤモリのようにドアにへばりついている犬だった。

そいつは飛んだ。飛んでフェンスの縁に停まってこっちを見ている。うん、こいつは見たことがある。夏のことだった。オレは上野公園の涼しげな木の下で、生ビールを飲みながらピザを食べていた。

やぱりピザとビールは合うなあ。と、空を眺めながらふうっと息を出し、二切れめのピザを食べようとしたオレの目の前で、そいつは残りのピザを咥えて逃げ出した。

こらあ! と、追いかけるオレ、一切れずつ落としながら逃げていくアイツ。オレは取り戻したところで食べるわけにはいかないことを思い出し、追いかけるのを止めた。

まだ、こっちを向いているそいつに向かって、オレは「ピザ泥棒!」と言ってみた。そいつはこっちを向いたまま首をかしげて、クワァと鳴いた。


【月】日も経っている。場所も30キロは離れている筈だ。同じヤツという可能性は限りなくゼロに近い。しかし、逃げるヤツを追いかけている時に感じた不思議な連帯感を思い出した。

オレは、また話しかける。
「ピザはおいしかったかい?」
黒いそいつは、最初よりはっきりした発音で
「食わん!」
と言った。


おしまい


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