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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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夜の学校

12/12/10 コンテスト(テーマ):第二十一回 時空モノガタリ文学賞【 学校 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1897

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 夏休みの三日間、敏樹たち小学生は、学校に宿泊することになっていた。
 林間学校の縮小版といったところで、昼間はプールでおよいだり、夜は校庭でキャンプファィヤがあったりして、生徒たちはこの学校行事をたのしみにしていた。教師たちも、遠く乗り物を使ってでかける旅行とはちがい、余裕をもって子供たちと行動をともにできた。
 最初の日、学校に集まるのは夕方だった。
 夕焼けもおわろうかという時に、学校に行くなど初めてのことだったので、敏樹の胸はなんだか騒いだ。
「やあ」
 途中、同じクラスの上西太郎とでくわした。
「いつもと、ふんいきがちがう」
 敏樹は、太郎もまた、自分とおなじことを感じているのをおかしく思った。
「こんな時間に、学校にいくことって、ないもんな」
 すでにあたりは薄暗くなりだし、家々の窓には明かりがついていた。昼間みなれている道沿いの家屋も、いまみると、ぜんぜん様子がことなってみえた。敏樹はじぶんの母親が、化粧をするまえとあとが別人のようにみえることをふとおもいだした。
 学校のまえまでくると、小学生たちが正門をとおりぬけているところだった。
 敏樹たちをみとめて、声をかけてくる連中もいた。敏樹は、みなれた顔の生徒たちをみて、気持ちがやわらぐのをおぼえた。
 校庭には、いくつものテントが張られていた。ブロックをつみかさねた竈にはおおきな鍋がかかっている。カレーや豚汁、ラーメンがその鍋で作られる予定だ。

          ――――――・――――――・――――――・――――――・――――――
 
 校庭でキャンプファイヤをたのしんだあと、9時までの自由時間を担任の山下先生は、自分の生徒たちを校舎の教室にあつめた。
 教室にはいると、まんなかの机にランタンが灯されていて、はいってきたみんなの顔がその炎に赤黒く浮かびあがった。
 山下先生はみんなを、じぶんをとりまくようにして座らせると、
「これから、出席をとる」
 といいだしたが、この演出効果満点のお膳立てからみて、どうやら本題はべつにあるらしかった。じつは先生は毎年これで、生徒たちを怖がらせることに、嗜虐的な喜びをおぼえているらしい。
「そのまえに、出席にまつわる怖い話をきかせよう」
 案の定先生は、秘密めかした顔で、きりだした。
「いまからだいぶ前のことだ。やっぱり夏休みに、今夜のように学校で生徒たちが宿泊したとき、そのときの担任が、出席をとった」
 やっぱりその先生も山下先生同様、嗜虐的な性格の持主だったのかしらと、敏樹はひとり考えた。
「―――全員で31名いた。しかしそれはおかしかった。なぜなら生徒は30名しかいなかったからだ。
 担任はもう一度、ひとりひとり、名前をよんでは、顔をあらためていった。やっぱり31名いた。ランタンの弱々しい明かりのために、まちがったのかと先生はこんどは、名前をよぶたびに席をたつようみんなにうながした。
 30名が呼び終わったとき、一番後ろの席にひとり残った。
 先生はその生徒に、きみの名前はとたずねた。そのひとりは、船山とこたえた。船山なんて名のものは、生徒のなかにはいなかった。そのときなぜか、ランタンの炎がゆらめいたとおもうと、一瞬後にはすぅっと消えてしまった。
 真っ暗になった教室に、ふたたびランタンに火が灯るのは、それからしばらくしてからだった。明かりがつくとみんなは、こわごわ船山という生徒のいたところをみた。しかしそこにはもうだれもいなかった。ただ、彼がすわっていた椅子だけがなぜか、びしょ濡れになっていて、まだぽたぽたと滴が床にたれ落ちていた。
 先生は気になって翌日、過去の生徒の在籍名簿をしらべてみた。すると10年前にたしかにその名の生徒が在籍していた事実がわかった。その生徒は海で水泳中に溺死していた。それがわかったとき先生は、おもわず膝ががくがくとふるえたそうだ」
 先生はそこで話しをおえると、みんなが怖がっているのを満足げにながめてから、おもむろに出席をとりだした。
「きみたち、心配するな。30名全員そろっている」
 もしかしたら、一人多いのではとおもっていたのは、敏樹だけではなかったはずだ。それでみんなは、心からほっとして、さっきの恐怖話もようやくたのしむ気持ちになってきた。
 そのとき、いきなり教室のドアが開いて、血相変えた教頭がとびこんできた。
「先生のクラスの高橋加奈さんが、学校にむかう道で、車にひかれて病院にはこばれる途中に亡くなったそうです」
 たったいま、クラス全員の名をよび、全員がたしかに答えたのを、教室にいるだれもが聞いていた。敏樹もまた、名前をよばれて高橋加奈が、いつもの澄んだ声で、はい、とはっきりこたえるのをきいていた。
 山下先生の手にした名簿が、目にみえてふるえだすのを、敏樹はみた。


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