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みやさん

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老人の森

17/09/24 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:0件 みや 閲覧数:431

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「迎えに来てね、お婆ちゃん待ってるから」
「迎えに行くから、お婆ちゃん待ってて」
それが孫と交わした最後の会話だった。

私は住み慣れた家を離れ家族と別れて、”老人の森”に入所する事になった。森の奥深くにあるその建物は高く広く巨大なホテルの様で、夏の始めに入所した私は蝉の大合唱に迎えられて、子供の頃に育った田舎を思い出させた。老人の森とは政府認定の老人施設の様なもので、家族との面会は月に一度だけ許されている。ただし孫との面会は一切禁止されていた。孫が婚姻して子供を授かるまでは。

婚姻率の下降と出産率の減少によりこの国は危機的状況を迎えていた。政府は産めよ育てよと推奨しているが婚姻しても出産するのは一人がやっと。そんな私も一人しか子供を出産していないし、私の娘も一人しか出産していない。
老人の増加を支える若者の数が圧倒的に足りずに政府がある法律を定めたのは四十年程前の事だった。若人の婚姻率と出産率を上昇させる為の苦肉の策なのか、或いは増加し続ける老人を減少させる為なのか七十歳を超えている老いた私には良く理解出来ない。

ー国民人口増加法ー
通称、国増と呼ばれるこの法律は孫がいる老人が対象とされていて孫が二十五歳を迎えても独身で子供がいない場合に適応となり、祖父母は政府が各地に建設している老人の森と呼ばれている施設に入所させられる。それと同時に孫は”若人の丘”と呼ばれている施設に入所させられ、その施設で五年の間に婚姻と出産の対象となるパートナーを見つけなければならない。タイムリミットは五年。孫が婚姻出来ずに子孫を残せないと判断されると祖父母はその時点で自然死と呼ばれる処置が施される事となる。孫がいない、そもそも子供すらいない人や婚姻していない人々は定年を迎えると自動的に老人の森の入所対象となり直ちにに自然死が施される。

「私の孫はそれは美人だし頭も良いし、結婚なんてしようと思えばすぐに出来るんですよ。心配なんてこれっぽっちもしていないわ。すぐに迎えに来てくれるに決まっているんだから」
老人の森で私が入所した二人部屋に先に入所していた老女は、不安だらけの私を他所にとても落ち着いていた。三年前からここで孫の迎えを待っているらしい。
「そうですか…私の孫は男の子なんですが、それはもう気が弱くて女の人と付き合った事もないんじゃないかしら…」
「あら、じゃあ若人の丘に入所出来て良かったじゃない。否が応でも女の人と付き合えるんだから」
「そう上手くいくでしょうか…」
「出会いが無かったから今まで異性とお付き合いや結婚が出来なかったんでしょ?だったら上手くいくに決まってるじゃない」
強引に出会いを提供されて、やれ交際しろやれ結婚しろと言われても、本人にその気が無ければどうなのだろうか?果たして上手くいくのだろうか?
「ね、綺麗でしょ?若人の丘でも引く手数多だと思うわ」
老女は自分の孫の写真を私に見せびらかした。髪が長くて美人だけれど気が強そうなその顔を見て、気が弱い私の孫のお嫁さんには無理だなと感じた。

老人の森での生活はバランスの取れた食事と医療の充実と、何も申し分無かった。ただ少し寂しくて少し不安なだけ…
入所して初めての月に一度の娘夫婦の面会日がやって来た。二人も若人の丘で出逢い婚姻を果たした。娘の夫のご両親も私とは別の場所の老人の森に入所している。
両親世代と呼ばれる娘夫婦の様な中年層は政府の税金確保の為に子供が結婚していなくても施設に入所させられる事はない。ただし子供が婚姻をしないまま自分達が定年を迎えると自動的に老人の森入所の対象となる。
「お母さん元気そうで良かった」「本当に」二人は口をそろえて安堵してくれた。
「元気よ。でも長生きなんてするものじゃないわね。お父さんの様に早く死んでいれば良かったわ」
私は本当にそう思っていた。長生きしても皆んなに迷惑を掛けるだけ。
「お母さんそんな事言わないで下さいよ」「本当よ」二人は口をそろえて慰めてくれた。
「そちらのご両親はどうですか?元気で過ごされてますか?」
「元気にやってますよ。息子も、あいつも皆んなの為に早く結婚しなきゃと頑張ってます」
「皆んなの為…あの子に心から好きになれる人が見つかると良いわね」
祖父母や両親の為に今では取り敢えず形式的に婚姻をする若人も増えている様だった。けれど子供が授からない場合は同じ現状を辿る事になる。孫が迎えに行くと言った私との約束に自分を縛り付ける必要は無い。放って置いても近いうちに死んでしまう様な老人なのだから。

夏が終わり蝉の声もいつの間にか聞こえなくなっていた。蝉も土に還ったのねと思い、夜に寝床に着くと同室の老女はもうスヤスヤと寝入っていた。遠くから鈴虫の声が聞こえてきて、私は自分も穏やかな気持ちで土に還れる気がしていた。


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