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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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明日の約束をしよう

17/09/24 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:912

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 彼は約束をしたがらない。
 それは約束を破ることが怖いからなのだ、と最近気づいた。
 契約をすることにためらいはないようだ。仕事として何かを請け負うことにためらいはないし、それがどんなに危険なことであっても普通の顔で引き受けている。
 それはおそらく、契約は破ったらペナルティが発生するから。相手側からの制裁という、目に見えた罰があるから、彼は契約をすることは厭わないのだろう。
 だけど、約束はしたがらない。
 それは単純に「今日は早く帰るから待っててね」とか「今度の日曜日は買い物に行こう」とか、予定といってもいいレベルの約束。そういったものに確定的な返事をすることを、彼は嫌がる。いつも「ああ、うん、まあ」みたいな曖昧な言葉で濁す。
 それは、そこにペナルティが発生しないから。
 もちろん約束を破られたら、あたしは怒るだろう。「なんで隆二はいつもそうなの!」とかキれている自分の姿が容易に想像できる。
 でも、それだけだ。約束を破ったところで命をとられるわけではないし、あたしが怒るだけで終わる。たとえ指切りして針千本飲ますなんて言ったところで、実際にそんなことをするわけがない。
 そういったペナルティがない状態が、彼は逆に嫌で苦痛で仕方がないようだ。
 別に守ればいいのに、約束ぐらい。こんなちっぽけな約束ぐらい。買い物に行くときはあたしをちゃんと誘う、たったそれだけの約束ぐらい、守ることなんて何も難しくないはずなのに。
 でもできないのだ。実際に約束が守れる守れないは関係ない。約束を守れなかったという状況になることが怖いのだ。だから、保険をかけて、最初から約束しない。
 それはそれで、おかしいだろうとは思うけど。
 契約は簡単に締結するのは、そこにペナルティがあるからだ。だから「守らなければいけない」と思えるから。そして「万が一守れなかった時に、ちゃんとそれ相応の罰を与えてもらえる」から。
 だから厳密に言えば、彼が苦手なのは責められない状態、なのだ。誰かにちゃんと、叱ってほしいのだ。
 結局のところそれは、昔彼が恋人とした約束に由来するのだろう。ちゃんと帰ってきてね、という恋人との約束を守れないまま死に別れた。それが彼を怯えさせている。恋人が彼を責めない分、彼は自身を責め続けた。そのことが、足かせになっているのだろう。
 まったく、難儀な人だ。
 そんなもの守れるように努力すればいいのだし、努力した上で守れなければ謝ればいいだけのことなのに。たかだか、明日の約束ぐらい、難しく考える必要ないのに。こんな約束、死ぬわけじゃないんだから。
「隆二ー、明日さ、天気良かったらお布団干そう?」
 弾んだ声で話しかける。
「あー、うん、まあ」
 曖昧な返事。
「約束ね!」
 それにさらに畳み掛ける。彼はちょっと困った顔をしたけど、あたしは引かない。
「はい指切りー!」
 強引に彼の小指と、あたしの小指を絡めて笑う。
 こんなもの、約束というかただの予定だ。守れる守れないなんて難しく考えることはない。それでもあなたができないというのならば、あたしは何度でも、いつでも、いつまでも小さな約束を持ち掛けよう。
 あなたが過去から距離を取れるまで、何度でも。
「真緒」
「約束ね」
 ばかっぽくおどけて、あたしは笑う。
 あなたはこれに気がついているのだろうか? 演技だということに。わざと約束しているのだということに。どちらでもいい。
 破ってもペナルティのない約束を繰り返そう。何度でも。
「明日の予定が決まったねー!」
「あー、うん」
 明日の約束をしよう。それは明日も一緒にいるという、未来の確認。
 これから先も、一緒にいるために。あなたがあたしから離れないように。
 明日の約束をしよう。


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