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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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Phantom Pain

17/09/23 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:594

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 僕にはずっと、誰よりも大切な少女がいた。
 僕の小鞠。僕の特別。

 幼い頃に越してきた田舎の家で、幽霊に出会った。十二歳ほどの姿をした、小鞠という少女の霊だった。
「驚かせてごめんなさい」
 初めて聞いた言葉は僕と両親への謝罪だった。鈴のような声に負の感情はなく、怖くはなかった。それよりも空気に溶けそうで綺麗だな、と僕は見とれていた。
「天に行く道が分からなくて、ずっとここに棲んでいるの」
 目を伏せる小鞠に、僕は「それなら」と思い付きを口にする。
「一緒に暮らそうよ」
 父は「そうだな」と明るく同意をし、母も「娘が出来たみたい」と能天気に言った。
 そして僕は「嫌かな?」と問いかけた。
 小鞠は戸惑い、けれどすぐに「ううん」と言った。
「すごく、嬉しい」
 それから小鞠と過ごす日々が始まって、僕らは毎日一緒に遊んだ。
 紙飛行機を何種類も作って飛ばしたり、シャボン玉が空に弾けるのを並んで眺めたりした。
 小鞠にいいところを見せたくてうんと高いところまで木登りをして、怒られたこともあった。
 心配のあまり涙さえ浮かべる小鞠を、あぁ綺麗だな、大切だな、と子供心に感じていた。
 仕事から帰った父に「肩叩きしてあげる」と労っていた小鞠。夜に小さな子供のように「お話聞きたいな」と母に甘えていた小鞠。
 僕ら家族の中に当たり前に小鞠がいる、そんな毎日が続くのだと信じていた。

 それから数年が経ったある日のことだった。
「……小鞠って、誰だい?」
 両親は小鞠の話をした僕に、そう言った。
 二人は小鞠の存在を忘れ去っていたのだ。何の前触れも、切っ掛けすらありはしない忘却だった。
 あの時の小鞠の姿が忘れられない。とてもか細く、小さい背中だった。
「命は先に進むから。命のない私との距離はひらいてしまう。……忘れてしまうのは、しょうがないの」
 諦めを口にするのが悲しくて、僕は咄嗟に小鞠を抱きしめた。触れられなくてすり抜けてしまうのだとしても、そうしたかった。思いっきりぎゅっと、どこかにある小鞠の存在を抱きしめたかった。
 小鞠を一人にしたくないという強い気持ちが、僕の中に湧き上がった。
「ねえ、小鞠」
 囁く声に小鞠が顔を上げる。
「約束をしよう」
 ――ずっと二人でいられる魔法の言葉を、ひとつだけ知っていた。

 あれから数年が経ち、僕は寮のある学校に通い始めた。課題が多くなかなか帰れないのが悩みだったが、小鞠が「将来のためでしょ」と背を押してくれたから頑張れている。
 今日は久しぶりの帰省。部屋に入って「ただいま」と呼びかける。
「おかえり、永太」
 昔のままの淡く綺麗な小鞠が現れる。
「なかなか帰れなくてごめん。今日はいっぱい話をしよう」
 夜になるまでの長い時間、たくさん話をした。とりとめのない僕の話を小鞠は嬉しそうに聞いてくれた。
 時計を見上げ、小鞠が「もうこんな時間」と言う。
 もっと話していたいという思いはあるけれど、この歳になって我儘を言うわけにはいかない。
 おやすみ、と挨拶をかわし小鞠の去った部屋で寝転んだ。
 ポケットを探り、ある物を取り出す。
 それはずっと小鞠にあげたかった物だった。寮のある街で悩み抜いて購入したそれをかざして眺める。
 渡したら、どんな顔をするだろうか。
 ――これで約束を守れる。僕は小鞠を置いていったりしない。
 幼い時からずっと、小鞠は僕の隣に寄り添い続けてくれた。……両親に忘れられて傷ついていた頃でさえ、僕に微笑んでくれたのだ。
 永太との約束があるからへいきだよ――と。
 あの日交わした約束を思い返す。
「……約束をしよう」
 声に出し、呟く。
 ――大人になったら。
「……大人になったら、僕と結婚しようね」
 それは好きな子とずっと一緒にいるための、誓いにも等しい約束。

 朝の光がやけに眩しくて目が覚めた。きらきらと朝日を反射する原因を机の上に見つけ、目を眇める。
「……何でこんなものが僕の部屋に?」
 眠りから覚めてはっきりとしてきた頭で考えても分からず、首をひねる。
 それはガラスで出来た、小さなものだった。
 自分で置いた記憶はなく、両親のどちらかが置いたとも考えられない。
 不思議に思いながら掌の上でいじっていると、それは突然ぱぁん、と砕けた。――ヒビも何も、無かったはずなのに。
「っと、危ない」
 ガラスは怪我の元になる。要らない紙に破片を包んで処分することにした。
「……?」
 何かが引っかかり、部屋を見渡す。けれどそこには窓からの朝日が降り注ぐ以外何もない。
 光を見つめすぎたからだろうか、……何かがきらきらと胸を刺し、痛むような心地をもたらした。
 紙に集めた破片を見つめ、元の形を思い起こす。

 それは真っ白な花が描かれた、頼りなく小さなガラスの指輪だった。


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