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デヴォン黒桃さん

「黒桃将太郎」名義でKindle作家として活動。「デヴォン黒桃」名義で猫面師としてアート活動も。人間ドラマや人の感情に興味があり、書きたい物をジャンル問わず書いております。「黒桃短篇集」発売中昭和浪漫のスコシばかり怪異なお話、アナタの脳髄へソット、注入サせて頂きます。 心の臓のヨワい御方は、お引き返し下さい。 精神に異常をキタしても、責任が取れませぬ故。http://amzn.to/2jPBe4m

性別 男性
将来の夢 りっぱなおとな
座右の銘 悔しいけど感じちゃう

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こうして天使が産まれた

17/09/20 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:2件 デヴォン黒桃 閲覧数:807

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 涙を零す少女が一人。煤ダラケの頬に伝い流れ、灰色に染まった。
 かろうじて肩に引っかかった服は、焼け焦げている。
 傍らに佇む白装束の年寄りが、其の少女へ声を掛けた。

「よく頑張ったね。辛かったろう。熱かったろう。苦しかったろう」
 少女は、灰色の涙を手の甲で拭い、老人の顔を見上げた。
「大丈夫……弟のコウタを助けられたから」
 老人は、細い目をモット細めた笑顔で、シワシワの手の平を、少女の額に重ねた。
 途端に、眩い光が少女を包み、辺りが花の香りに包まれた。
 花弁が落ちていくみたいに、ホロホロと光の欠片が足元に落ちる。
 其れは少女の焼け焦げた服を真っ白いシャツとスカートに替え、胸元で弾けた。
 続いて、其のシワシワの手で背中を擦る。
 少女の顔から灰は消えて、頬がほんのり淡く桃色に染まった。

「何処か痛いところはないかい?」
 老人が尋ねると、首を横に振った。
「そうか、ソレは良かった。では、参ろうか?」
 老人がシワシワの手を上げると、其処に金色の階段が現れた。
「これは、お前のように良いことをした人間が、天に登る階段だよ。もうこの先に苦痛はない。さあ、参ろうか」 
 しかし、少女は、ジッと地面を見つめたまま。
「アタシ、行かない……」
 老人は、細い目を見開いて少女に尋ねる。
「何故だい? 焼け死んだお前の苦痛を取り払い、楽しいだけの世界に行けるのだよ」
 少女は頑なに動こうとはしない。

「困ったね。お前を包んだ其の光は、そう長く保たないよ。やがて、また背中が熱く疼くことになる。早く階段を上がって行くのだ」
 少女は、只々地面を見つめたまま。
「何をそんなに気にして居るのか」
 少女は口を開いた。
「コウタが……独りになっちゃった……アタシが死んでしまって、コウタが独りになっちゃった。可哀想だから見守っていたいの」
 老人も地面を見つめた。少女が死んだのは、突然の火事に逃げ遅れた弟のコウタを抱きしめて守ったから。背中が焼け焦げていたのは其のせいだった。
「もっと小さい頃に、父ちゃん母ちゃんが死んだんだ。……コウタが大きくなるまで、一緒にいるって約束したの。でも、一緒にいてあげられない。あの子、夜、一人でおトイレに行けないの……」
 桃色の頬に、涙が流れた。

「おじいさん、神様でしょ? アタシを生き返らせて、コウタが独りにならないように」
 老人は、細い目を一段と細くして呟いた。
「……確かに神様だよ……でもね、一回死んだ人間を生き返らせるのは、神様でも出来ないんだよ」
 それからズット、少女が泣きやまないもので、神様も困り果ててしまった。
「……痛っ……」
 光の力が消えかけ、少女の背中が痛み始めた。
「どうしても行かないのかい?」
 神様の問いかけに、強く頷いた。
「……ならば仕方がない。ではこうしよう。私との約束だ。コウタが大きくなったら、この世界に戻り、三千世界の神様の手伝いをするんだよ? 背中の痛みももう消せなくなる……それでもいいかい?」
 少女は涙を手の甲で拭き、強く頷いた。
「うん、約束する」 
 神様は、トンと、地面を足で突いた。其処には穴が広がり、下界が見えた。
「では、行きなさい」
 少女が穴の方へと歩いてくる。神様が背中をフワリと擦る。
「あれ、痛くなくなった……」
 神様はニッコリと笑いこう云った。
「痛みを消したのは、他の神様には云ってはいけないよ。本当はやってはいけないことだからね。お前は、迚も優しい。私からの贈り物だ」
 そう云って背中をもう一度撫でた。
 神の手が離れると、背中に手のひらほどの小さな羽が二枚、パサリと生えてきた。
「ほら、早く行きなさい、産まれたての天使よ。コウタが待って居るのだろう」
「ありがとう御座います。神様……」

 穴へ飛び、小さな羽を羽ばたかせながら降りていく少女に問うた。
「お前の名は?」
 少女は大きい声で答えた。
「満月!」
「満月、良い名前だ」
 神様の声が聞こえていただろうか、産まれたての天使は、愛する弟の元へ舞い降りていった。
  




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このストーリーに関するコメント

17/09/20 石蕗亮

拝読致しました。
ラストのシーンで夜空の満月から天使が降りてくるのを想像しました。空に穴があって天界や神の光が溢れている世界。そんな世界観を彷彿させられました。綺麗なストーリーでスーッと入ってきました。

17/10/10 デヴォン黒桃

石蕗亮さま

コメントありがとうございます。これは外国で実際に、火事から弟を守った姉がいたのですが、消防士が助けに行った時には遅く、力尽きていたそうです。
その消防士が彼女に宛てて書いた手紙を読んだ時、胸が詰まりました。
小説の中で彼女を救いたいという僕のエゴから産まれました。愛するものを守る、実践するのはなかなか難しいです。

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