1. トップページ
  2. 人と鬼の約束

アシタバさん

未熟者ですが宜しくお願いします。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

人と鬼の約束

17/09/10 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:0件 アシタバ 閲覧数:395

この作品を評価する

哀れな村を険しい山々が取り囲む。
まるで牢獄のようだ。
村人達は山に棲む一匹の鬼を恐れていた。
鬼は物見やぐらに匹敵する巨体の持ち主で、怪力ながら知恵もある。人の言葉を操り、村人に身の回りの世話をさせた。
そして、時折食うための生贄を差し出させるのである。
鬼がその気になれば村は簡単に全滅するだろう、それを理解している村人達は恐ろしい鬼の機嫌を伺って日々を生きてきたのである。

鬼が新たな生贄を寄越せと言ってきた。
村長が生贄を公平にくじで決める。この時は旅籠屋の娘が選ばれた。
生贄の件を伝えに行くと娘の両親は泣き崩れ、村長はひたすら長としての無力さを詫びた。
村長は娘にも詫びようとした、途端、愕然とする。
「わたしなんてやせっぽち食べて美味しいのかしらね」と薄ら笑いを浮かべていた。
村長は一瞬、この娘に鬼とは違う類の恐れを感じたのだが、それも束の間。
娘が恐怖でおかしくなったのだと考え、心を痛めた。

生贄を引き渡す日。
昼でも暗い山道を登った先に悠然と鬼が待っていた。熊とは比較にならない恐ろしさに付き添いの者は来た道をすぐに引き返した。
「さっそく頂くか」
鬼が娘をわし掴みにしてぱっくり口を開けた時、娘は言葉を発した。
「提案がございます」
顎を閉じるのをやめた鬼が「何だ」と聞き返す。
「わたしを太らせなさい。こんな骨ばかりの不味い体、鬼様には到底差し出せませぬ」
鬼は少し悩むも、一理あると考えた。すると「よし、お前が太るまで我慢しよう」と言う。
娘は礼を述べ「約束ですよ」と可憐な笑みを浮かべた。

こうして鬼は村人に食料を運ばせ、娘を太らせるべく傍に置いた。鬼は娘が旨くなるのを楽しみにしていた。だが、やがて気がつく。一向に太る気配がないのだ。食事をたっぷりとらせているのに、どうも腑に落ちない。
それもそのはず、娘はもともと飯を食っても太りづらい体だった。娘はそれを承知の上、さらに鬼が寝ている隙に走ったり飛んだりと運動を欠かさず行っていたのである。
これで太る筈がない。
「もう我慢ならん。お前を食う」
にじり寄る鬼に向かって娘は、まぁ、と声をあげた。
「鬼様とあろう方が約束を破られるのですか?」
鬼は言葉に詰まった。鬼は誇りが高く、娘のあきれた表情を見て思い留まったのだ。
「そうだな。約束なら仕方ない」
「なら代わりにこうしましょう」と娘が手を叩く。どこか楽しんでいるようにも見えた。
「わたし旅籠屋の娘ですから旅人から色々な話を聞いております。毎日鬼様にひとつずつお話しするので、それが尽きたら食べなさいな」
鬼はまたしても娘の提案に興味をひかれた。
「よし、わかった。それまで食うのは我慢しよう」
「約束ですよ」
娘は子供を寝かしつけるような穏やかな語り口で物語を紡いだ。
鬼は今まで聞いたこともない話に夢中になったが、やがて気がつく。娘の話に尽きる気配がない。
「一体お前にはいくつの話があるのだ」
そのからくりは単純で娘は話作りの才覚を持っていた。聞いた話を参考に新しい話を毎日生み出しているのである。
「やっぱり我慢ならん。おまえを食う」
牙を剥き出しにした鬼は突然、寒気を感じた。娘が今まで見たこともないような形相で自分を睨み付けているのだ。その眼差しはまるで、約束を破る卑怯者は永遠に地獄で苦しむのだ、という忠告に見えた。
(気高い鬼が卑怯なことなど出来ぬ)と考えざるを得なかった。
泣く泣く娘を食うのをあきらめたのである。

ずっと娘の話に耳を傾けていた鬼だが、やがて、ある変化がおとずれる。娘のする話から優しさや情けを学んだのだ。鬼は徐々に愛という感情を胸に宿していった。
鬼は娘に相談をする。
「もう人を食うのはやめる。その代わり私を村の守り神に祀ってくれないか?」
娘はそんな鬼を笑顔で称えて「素晴らしいお考えです。必ずお約束します」とその旨を村に伝えに帰った。その晩、村人が大勢押しかけて山はお祭り騒ぎになった。大量の酒が鬼に振る舞われ、鬼はすっかり気を許して酔いつぶれた。幸せそうな顔で眠りについたのである。

鬼が目を覚ますと太い荒縄が自分をきつく縛り付けているのに気がついた。
巨大な鬼が身動き出来ない程、執拗に。
「これは何だ!」
困惑する鬼の瞳に松明と刃物を握る村人達が映った。誰もが目に憎しみを宿している。この人数に何度も切りつけられれば、さすがの鬼も命はない。
「娘はどこだ!」
「何でしょう?」村人の間からひょっこりと現れた。
「約束が違うではないか」
今や威厳の欠片もない鬼に、娘は言った。
「ごめんなさい。誰もあなたを許す気などないのです。それに――」
鬼ははじめて目の当たりにする。人の悪意に満ちた嗤いを
「人にとって約束とは相手を裏切るためにあるのですよ」

この夜、山には肉を切り裂く音がやまなかったという。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン