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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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強風の夜の怪人

17/09/09 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:0件 クナリ 閲覧数:762

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 昭和のある時代、東京の片隅に、ひとつの全寮制中学校があった。
 生徒には外国人やハーフが多く、純粋な日本人の方が少ない。
 ハインツ・コイルフェラルドは二年生のある秋の黄昏を、レンガ造りの寮のロビーで紅茶を飲みながら過ごしていた。
 風の音が、外で強く鳴っている。

「ねえハインツ」
「……フィア。一応ここは男子寮なんだけどね」と小声で答える。
「さっき女子寮で起きた事件を知らないの? 空飛ぶ怪人が出たのよ」
「怪人」
「一年生のミアッツが、今度の合唱コンクールに校代表で出ることになって、さっきまで音楽室で練習してたの。それで部屋に帰ってベッドを整えていたら、窓の外に怪人が現れたの。彼女の部屋は三階なのに」
「……君じゃないのか」
「ほー」
「ごめん。続けて」
「怪人は西洋風の彫りの深い顔立ちで、濃いお化粧をしていて。長いマントを羽織って、両手を広げて宙に浮いていたの。手を窓に突き出してきたのでミアッツが悲鳴を上げたら、怪人は空に消えたわ。彼女倒れちゃって、先生が救急車呼んだみたいよ」
「ふうん。屋上からは……」
「人間を吊ったような跡はなかったわね。怪人は左右に動いてたらしいから、ハシゴや脚立でもないし。どうやって飛んだのかしら」
「その時、周囲には」
「怪しいのは、日暮れの時間なのに女子寮の近くにいた男子三人ね、私が飛び回って調べておいた。きっとこの中に犯人がいるわ!」
「なんでそんなに周到なんだ……」
 フィアはハインツの弟と特に仲がいいのだが、行動力がやたらあるところがそっくりだった。
 苦笑しながら、ハインツが言う。
「じゃあ、その三人のことを聞かせて」

 一人目、田内ショーン。
「床屋さんの末っ子で、生物部の花壇係ね。怪人騒ぎの直後は、一人で外にいた。古い発泡スチロールのプランタを壊して捨てるのに時間がかかったみたいで、一人で部活に残ってたのね」
 二人目、イード・ハウンセン。
「お医者さんの長男、お姉さんがいる。バスケット部の控え選手。例の時間は、一人でボール磨きや後片付けをしていたわ。ボールをつるつるにできる薬品でじっくり拭いていたって。いらないボールとネットを捨てたりもしてた」
 最後、ロウラウ・カナタ。
「牧師さんの一人息子ね。保険委員で生物部の飼育係。事件の直後は、作業着を着て兎小屋の修理をしていたわ。ワラや糞なんかを新聞にくるんで捨ててたわね」
「その中で怪人と似た顔立ちの人は?」
「誰も全然似てない。事件後、屋上からそれぞれの位置にたどり着けるような時間的余裕もなかったはずよ。第一、悲鳴が上がって大騒ぎになった女子寮の中を、男子が移動できるとも思えないし」
「まあ、一番可能性が高い奴から当たってみるよ」
「誰よ、それ?」
「当たったら教える。じゃあ、行ってくるね」

 翌日。
「動機は、ミアッツに校代表の座を奪われた女子の敵討ちだったそうだ」
「それより、どうやって怪人になって空を飛んだわけ?」
「空なんか飛んでない。吊るしたんじゃなくて、持ち上げたんだよ。花壇の柵囲い用の軽くて丈夫な棒で。同じ素材で怪人の骨組みをごく簡単に作ったら、土の保護に使っているビニールシートを被せてマントにして、風をはらめば胴体になる。要は中身がスカスカの案山子だね。手は軍手を着ければいい。吊るすより、多少の動作もさせやすいだろう。全部造園道具で足りる。事後に分解するのは一瞬ですむ」
「肝心の頭は?」
「床屋さんて、頭だけのマネキン持ってるんだよ。なぜかやたら西洋風の顔立ちの。発泡スチロールでできてるから軽くて丈夫。変にリアルに顔を描くより、少々極端に描き込めば、化粧の濃い怪人のできあがり。夜なら充分騙せるし、プランタと一緒に壊せば証拠隠滅。最後に消えたのは、強風にあおられたんだろう」
 そこまで言って、あくびをひとつ。
「ハインツ、眠そうね。今日遅刻したし」
「徹夜で頭のマネキンの立体パズルやってたんだよ、ごみ捨て場から拾い上げて。推理を聞かせてそれを見せたら、田内は自白してくれた」
「皆に言う?」
「いや。校長先生とミアッツにだけはちゃんと話して謝る代わりに、僕も相棒以外には誰にも言わないって約束した」
「ハインツが授業そっちのけにするって、初めてじゃない? そんなに興味のある事件だった?」
「ミアッツも大変だったし、田内も大事になって凄く反省してるだろうから、早く解決しないとって思っただけさ。そのためには、動かぬ証拠として顔を描かれたマネキンが必要だった。授業より優先順位が高いことも、時々はあるよ。ああ、予鈴だ。眠すぎて、午後も集中できないな、これは」
 校舎の外は、秋晴れの空が広がっている。
 弟やフィアや友人と一緒に、授業をサボって出掛けてやろうか。
 そう思えるくらいには、今の学校は楽しく、平和だった。


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