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ファリスさん

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戻らない

17/09/01 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:0件 ファリス 閲覧数:684

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目を覚ますと、そこは僕の部屋ではなかった。
白くて冷たい、そんな感じだ。
ここは……?
「マサ……?」
誰かが呼んだ気がした。
「マサ、気がついたのね!」
母、さん……?
「よかった!先生に伝えないと」
……母さんは電話のようなもので誰かと、たぶんその「先生」と、少しだけ話をした。その後すぐに白い人が部屋に入ってきて、ここが病院だとわかった。
「初めまして、雅人君……いや、雅人さんと呼んだ方がいいのかな。私はあなたの主治医の横水です。意識が戻ったばかりで混乱しているとは思いますが、いくつか質問に答えていただけますか?」
やたらと丁寧な医者の質問に、僕はできる限り答えた。質問が終わると、医者は部屋から出ていった。
「マサ、なんで病院にいるか、覚えてる?」
そんなの……
「……なんで、だっけ」
あれ、おかしいな。
何にも覚えてない。
「私たちはね、交通事故に遭ったの」
交通事故だって?
そんなの覚えてない。
「交通事故に遭ったことなんてないよ」
「まだ記憶が完全には戻ってないのね。まあ、そのうち思い出すでしょ」
いつもより軽い雰囲気の母さんに、僕は少し違和感を感じた。
「りんごでも食べる?」
「うん」
その違和感は、続かないりんごの皮も訴えていた。
もしかして、事故のコウイショウ?
事故に遭うと、コウイショウが残って不自由になることがあるって先生が言ってた。
先生?
そうだ、宿題がまだ終わってない!
「ねえ、夏休みっていつまで!?」
今度また宿題を忘れていったら、先生にすごく怒られる!
それに……!
「はぁ、夏休み……?あぁ、そっか、そうだよね」
母さんは一人で納得していた。僕には何もわからない。
「母さんと約束したじゃん、宿題をちゃんと終わらせたら、誕生日プレゼントに赤い車のラジコン買ってくれるって!」
「ラジコンなら買ってあげるから、落ち着いて」
「え、いいの?まだ宿題終わってないのに」
「いいの」
約束は絶対に守らないといけない、そういつも言っていたのは母さんじゃないか。
違和感が大きくなる。
「昨日のこと、覚えてる?」
「え、昨日は……」
昨日は、夏祭りに行った。
明日は祭りでいくつ景品を取れたか数を競おう、と言っていた。
昨日のことのはずなのに、もっとずっと昔のことのように感じる。
「……昨日は、夏祭りに行ったんだ」
この時、僕は気づいた。
声が低い。まるで大人のような。
「昨日では、ないけどね」
僕はもう、声が出なかった。
「そう、あの日は、夏祭りに行こうとしてたのよね。それで、車で神社まで行くことになったんだけど、その途中で事故に遭った」
ゆっくりと思い出すように、母さんは続けた。
「事故で私は骨折、マサは意識不明の重体、そして……」
その瞬間、僕は思い出してしまった。

首から上が無くなった母さんの姿を。

「で、でも!母さんは今ここにいる!」
「マサ」
違和感が確信に変えられてしまうのが怖かった。でも、見ないふりはできなかった。
「私はね、母さんじゃない。お姉ちゃんなの」
「じゃあ、母さんは……」
お姉ちゃんはそれ以上、何も言わなかった。

戻ってきた医者の話によれば、僕たちが交通事故に遭ったのは、十三年前のことだそうだ。だから僕は声変わりし、お姉ちゃんも母さんにそっくりな大人になっていた。
失った十三年はあまりにも大きい。
小学校の友達はみんなもう就職したか大学生になり、中には子供が産まれた人もいるらしい。
みんなは十代という輝かしい時代を全力で駆け抜け、今はそれぞれの道を進み始めている。
その中で、僕はずっと、ただ眠っていただけなのだ。
母さんもいなくなってしまった。

約束が果たされることは、もうない。


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