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綾瀬和也さん

北海道の競走馬生産・育成牧場で働く綾瀬和也です。地元は栃木です。宜しくお願いします。

性別 男性
将来の夢 ダービー馬生産
座右の銘 目標がその日その日を支配する

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空白の七年

12/12/04 コンテスト(テーマ):【 喫茶店 】 コメント:0件 綾瀬和也 閲覧数:1829

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 俺、渡部嘉人の通った高校の通学路。学校と家の中間地点にある喫茶店がある。店の名前は「ハイマウント」という。放課後には高校生が勉強したり、おしゃべりしたりと生徒たちが集まっている。嘉人もその中の一人。高校卒業して大学に進学してからも、何度も訪れた。大学卒業して地元の企業に就職。この店は午後9時まで営業しているので、仕事帰りにもしょっちゅう訪れているので、かれこれ10年通っている行きつけの喫茶店だ。今日も午後7時ぐらいに来店した。

「いらっしゃい」
 マスターの元気な声が聞こえてくる。10年経っても見た目は変わらない。相変わらず口元にはひげを生やしている。店内には、嘉人の近所に住む女子高生二人組が奥の席に座って楽しげにおしゃべりをしていた。嘉人は指定席になりつつある、カウンター席の一番奥に座る。
「いつものコーヒーください」
 来ていた上着を脱ぎながら嘉人が言う。すぐに美味しそうなコーヒーの臭いが漂う。ここのコーヒーは近所の奥方たちにも評判のコーヒー。嘉人も長年このコーヒーを飲んできた。
「お待たせ」
 白いコーヒーカップが嘉人の目の前に置かれた。軽く会釈をする。軽く湯気を立てるいるいつものコーヒーだ。コーヒーはブラック派の嘉人。何もいれずにコーヒーを飲む。ふっと気分が落ち着く。もう一口飲んだところで、ワイシャツの胸ポケットから煙草を取り出す。大学のときから吸い始めた。一日10本程度。コーヒーの湯気とともに、嘉人の吸う煙草の煙が漂う。
「飯は食べないのかい?」
 ふとマスターが口を開いた。マスターも後ろの食器棚に寄りかかりながら、煙草を咥えていた。
「相変わらず絵になりますね」
「ほっとけ」
 クールに言い放つマスター。
「じゃあ…特製カレーライスを」
「あいよ」
 マスターが言い調理を始めたとき、来店者。嘉人の表情が固まる。元カノの杏子…

 杏子は入ってすぐ嘉人の存在に気がつく。
「嘉人…」
 静かに呟く杏子。嘉人は眼を合わせず、煙草の煙を吐き出す。ここで出て行くと余計に気まずいと判断したのか、杏子は嘉人の一つ隣のカウンター席に座る。
「マスター、アイスティーで」
 肩にかけたカバンをテーブルに置きながら杏子が言う。マスターが頷きアイスティーを作る。店内には、静かなBGMと女子高生のおしゃべりの声が響く。煙草を灰皿に押し付ける嘉人。ちらっと杏子を見る。相変わらず綺麗だ。クラスで一番の美少女と言われていた杏子。射止めた嘉人に男友達からは称賛の声、ひがみの声が多々聞こえた。嘉人は沈黙に耐えられず先に口を開いた。
「帰ってきたんだ」
 杏子の事を見ずに言う嘉人。杏子は高校卒業後、東京の大学へ。遠距離恋愛はお互いしたくなかったので、卒業直後に別れた。成人式では顔を合わせただけで、話はしていなかった。東京にある大手企業に就職したと風の噂で聞いていた。マスターがアイスティーを杏子の前に置く。ストローを差し、ガムシロップを入れながら、杏子が口を開いた。
「うん。…会社辞めたんだ」
「え、そうなの?」
 始めてちゃんと杏子の事を見る嘉人。杏子と目が合った。少しはにかんだ笑顔を見せた杏子。
「先週辞めて帰ってきた。久しぶりにハイマウント行きたいと思って…」
「そうだったのか。じゃあこれからこっちで?」
「一応そのつもり。東京はもうやだよ」
 何気ない会話が続く。嘉人の目の前に、先ほど頼んだ特製カレーが置かれた。スプーンが二つ置かれていた。顔をあげた嘉人。
「二人でいつも食べてただろ」
 マスターが微笑を浮かべながら言う。高校生のとき、休みの日のお昼も二人で来て特製カレーを二人で食べていた事を思い出す。今度は嘉人がはにかむ笑顔を見せた。杏子も同じように笑顔を見せていた。咳払いをする嘉人。すると、一つ空いていた右側の椅子に杏子が座った。
「懐かしいねこの感じ」
 杏子がうつむきながら言う。
「そだね」
 嘉人もうつむきながら言う。そして、スプーンを取り一口食べて、お皿ごと杏子の目の前にずらした。杏子もスプーンを取り、一口食べる。そして、
「美味しい。変わってない」
「そうなんだよ。全然変わってないんだよ」
 そう言い笑顔を見せる嘉人。杏子も同じように笑顔を見せた。マスターもその光景をほほえましく見つめていた。

「彼氏いるの?」
「ううん。いないよ。嘉人は?」
「残念ながら俺もいない」
「そっか。……18歳から変わってないね、嘉人は」
「杏子は変わったよ」
「え?」
「もともと綺麗だけど、もっと綺麗になったね」
「調子イイこと言わないで」
「本気だよ」
「ありがと」
 閉店時間が迫っていた。でも空白の七年を埋めるために二人は語りつくした。

 一週間後。
「いらっしゃい」
 マスターが言った先には、笑顔の嘉人と杏子が立っていた。


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