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夢で逢えたら

12/12/04 コンテスト(テーマ):第二十回 時空モノガタリ文学賞【 お正月 】 コメント:0件  閲覧数:1904

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 私は本屋である雑誌の創刊号を見つけた。
 彼は愛ってなんだ?というようなことを雑誌に投稿していた。

 彼にとって愛はネガティブな思考でしかなく、専門学校を中退していた。
 仕事も決まらず、アルバイトもせず、ただ、生きていた。

 彼の書いた投稿をみて、雑誌社を通じて、こちらから手紙を渡すことが出来た。
 転校生で小学校から高校まで、なかなか友達が出来ずにいた私は、彼に手紙を書いた。
 私もただ生きていた。

 高校から大学に進学したかったが、両親が離婚をしたのをきっかけに、仕事をすることになった。

 はじめてのアルバイトは、デパートの店内放送で、いままで誉められたことがなかった私に優しい言葉をかけてくれる先輩や上司が大切な仲間になった。

 休日や祝日や連休や季節にあった行事に心が躍った。
 お正月は新しい年をむかえる準備で、いそがしく働き、店内放送の間隔も短くなり、催事場での案内もお客様に一生懸命にしていた。
 大入りのぽち袋が何度も出るくらいデパートは活気に満ちていた。

 彼に手紙を書いたことなど、すっかり忘れていた私は見知らぬ人からの手紙に驚いた。
 封筒の中を開いて見ると、ワープロで打たれた文字の羅列が、言葉遊びをしているように「ん」の連続が30文字続いていたり、こちらから返事を書くまで、ほとんど毎日のように手紙が2、3通届いていた。

 彼には誰もいないんだ。
 私は何通も届けられる手紙を読みながら、そう思っていた。
 そして私は、とうとう返信の手紙を書いてしまった。
 それから100通を越えるほどの手紙のやりとりをしながら文通をした。

 私には彼の思惑がわからず、とまどっていた。
 手紙には、電話番号が書かれていて、なんでもいいから、電話をして下さいと書かれていたり、私に逢いたいと書いてくるようにもなった。

 彼との文通は1年以上、続いていた。
 再度、彼から、1度だけでいいから、逢いたいと言われて、私は彼の経歴や家族構成や飼っている犬のことを知っていたので、これで終わらせるつもりで、彼に逢うことにした。

 駅にはつばめの巣があって、それをながめていたら、彼が電車で私に逢いに来た。
 目印は、彼は「ブサイク」な容姿をしているということだけだった。

 約束の時間は過ぎていた。
 もう帰ろうと思ったとき、電車から、彼と思われる「ブサイク」が降りてきた。
 「そう?」
 彼はそれだけ言って、私がうなずくと、「かわいいとは思わなかった」と言って、喫茶店でコーヒーを飲もうと誘われた。
 
 通りすがりの喫茶店は、まだはいったことがなかった。
 私は、そこで、さよならを言うつもりでいた。

 彼は「ブサイク」なせいで、女の子から、嫌われてばかりで、いつか女に復讐したいと言いながら、怒りに震えた手でカップを持ち、コーヒーを飲んでいた。
 私は怖くなって、持ってきたプチタオルを握りしめていた。
 「あなたは本当にブサイクだね。もう、私は逢うのも手紙もやめたいんだ」
 「俺は君のこと気にいっているよ。結婚したいくらい、だ」
 そして彼は私の手を握ってきた。
 「やめてくれない?」
 私が言うと彼は言った。
 「ごめん。無意識だった」

 「別れたいんだけど?」
 「なんで?」
 私が強く言うと彼は不思議そうな顔をしていた。

 「俺は裏切らないよ?結婚したいから、いまから家に着て、両親と姉に逢って欲しいんだけど?」
 「それ、お正月の挨拶に来てほしいってこと?」
 「それも、ある」
 私はもっと強く言った。
 「あなたには、もっといいひとがいると思う。そういう愛を受け止めてくれるひとっていると思うんだ。私ではなく、別の誰かがきっとあらわれるよ?」
 「俺は君のことが好きで、君は誰が好きなんだろう?ゆうきは俺のこと好きなんだと思うけど?」
 「ゆうきさんは女性だよね?だったら、それでいいじゃない」
 「そういうわけにはいかないよ?俺の気持ちはどうなるの?」
 私は1000円札をカウンターに払って、そのまま、黙って、外に出た。
 「ありがとうございましたぁ」
 注文したコーヒーをふたつ持ってきてくれたウェイトレスの声が震えるように聞こえた。
 これって、絶対怖いよね?私は手紙を書いたことを後悔した。

 彼が私を追いかけてくることはなかった。
 そのまま、喫茶店にいて、そのあと帰ったことや本気で好きだから、結婚して欲しいと後の手紙に書かれていたが、私はそれを郵便局に行って、そのまま、手紙を返した。
 それ以来、彼から連絡がくることはなかった。

 私はお正月休みをもらい、初詣に出かけて良縁を祈願して参拝した。
 初夢にでてくるのは誰なのかなぁ?空を見上げながら、思った。
 いまから20年以上前になる出逢いだった。
 
 


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