1. トップページ
  2. 砂時計の浜辺で

luckyさん

小説が好きで、ショートショートの小説を書いてます。 月1ペースでUPしていきますのでよろしくお願いします。

性別
将来の夢 本好きなので、小説家。^^
座右の銘 一期一会

投稿済みの作品

0

砂時計の浜辺で

17/08/26 コンテスト(テーマ):第113回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 lucky 閲覧数:641

この作品を評価する

 突然の豪雨だった。
 予報されていなかった雨はひたひたと勢いを増し、傘を持たなかった僕はある店の屋根の下に駆け込んだ。
 一目では店だと分からないような古ぼけた作りで、ガラス窓に小さく、
【砂時計】
とだけ書かれていた。
 雨は一層強くなり、しばらくやむ気配はない。吸い寄せられるようにドアを開ける。
 木製のドアは取っ手の金属が錆び付いていて、開けるとギイイときしむ音がした。まるで何年もの間、開けられたことがなかったかのように。
 カラン、と乾いた音を立てベルが鳴る。
 埃とカビと湿気が入り交じったような独特の匂いがする。
「すいません・・・・・」
 少しの間だけ雨宿りさせて下さい、と言おうとしたが誰もいない。店内を見回すと、何か大きな物があることに気がつく。目を凝らして見ようとすると、後ろから声がした。
「砂時計じゃよ」
振り返ると、店主らしい老人がいる。
「砂時計・・・」
にしては、いささか大きすぎるのではないか。人の背丈の倍くらいある。
「こんな大きな砂時計、逆さまにできるのですか?」
「意思さえあればな」
店内を見渡すと、様々な大きさの砂時計がある。
「ここはいったい・・・」
「この砂時計はな、大きさによって、自分が戻りたい時まで時間を戻せるんじゃ。時間の制限はあるが、そのときの会いたい人にも会える。たとえ・・・」
老人は僕の目を見つめ言った。
「死んでしまった人だとしても」
雨が、ガラス窓に叩き付けられる音がする。
自分が唾を飲み込む音が、店内に響いた気がした。
「ほ・・・本当ですか?」
老人に駆け寄った。
「本当に、会えるんですか?僕は、謝らなきゃいけない人がいるんです。どうしても。時間を戻せないかって、毎日思っていたんです。どうか、十年前に戻して下さい。お願いです」
 僕が詰め寄ると、老人は奥にある大きな砂時計をテーブルの上に置いた。
「では、これを使いなさい。逆さにすると、十年前に戻ることができる。ただし砂が最後まで落ちきる前に戻ってこないと・・・」
店主が言い終わらないうちに、ぼくは砂時計を逆さまにした。

××××××

 気がつくと砂丘にいた。見渡す限り、砂だらけだ。風がゴオゴオと鳴っている。
ここは何処だろう。記憶の中では、砂丘を歩いた覚えは無い。本当に、十年前なのだろうか。
「おーーーーい、陸!」
僕を呼ぶ、懐かしい声がした。
振り返ると友人がいた。十年間忘れたことの無い、懐かしい顔がそこにあった。
「久しぶりだな、海斗」
涙をこらえきれずに言った。

 二人で浜辺を歩いた。彼にとっては昨日のことかもしれないが、僕にとっては十年も前のことだ。忘れていることもたくさんあった。部活のこと、勉強のこと、そして、恋のこと。
 ぼくと彼は剣道部に所属していた。二人でよく、大会前に竹刀のささくれを削りながら、色々な話をした。どんな些細なことでさえ、彼と話すとすべてが笑い話になった。ただ一つだけ、笑い話にならないことがあった。
 あれは夏の始まりだった。ジーーージーーーと鳴く虫の声を聞きながら、練習後の夜、二人で道場に残っていた時だった。
「俺、テニス部の礼奈さんのこと、好きなんだ」
 唐突に、彼は言った。夏の夜風が頬をなでた。僕は突然の告白に戸惑った。今まで長い間一緒にいたが、二人で恋の話などしたことが無かったからだ。
「いきなりどうした」
動揺を隠しながら、言った。
「俺はこんななりをしながら、誰かを好きになったことなんて初めてだ。なあ、お前に頼みがあるんだ。彼女に手紙を書くから、それを渡してくれないか?」
 僕と礼奈は幼なじみだった。それを見越しての頼みだったのだろう。恋愛に奥手の彼が、彼女に直に告白なんてできるわけがなかった。
「好きな人ができたのか。よかったな」
目をそらしながら言った。そして、その申し出を受けた。
彼は手紙を書き上げ、僕にそれを預けた。
 その日の帰り道、海に行った。風がひどく強い日で、薄目で歩かないと、砂が目に入った。僕は彼から預かった手紙を取り出した。青い便箋だった。読もうとしたわけでも、捨てようとしたわけでもなかった。ただ、その手紙の所在をどうするか決めかねていた。
 僕は礼奈のことが好きだった。彼が好きになるずっと、以前から。
 突然、風が吹いた。その風は彼が書いた手紙を空高く舞い上げ、空と海の狭間に吸い込んでいった。あっと言う間の出来事で、しばらくその場から動けなかった。
 その後、手紙の件について、彼から何も聞かれなかった。
 
 卒業して、しばらくして彼が亡くなったと連絡が来た。学生の時から煩っていた病だったらしい。あのとき彼は自分はもう長くないと知っていたのだ。それを聞いたとき、自分が取り返しのつかないことをしてしまったと気がついた。どんなに悔やんでも、時間は戻せなかった。十年間、鉛を飲んだ思いで生きていた。

「なあ、海斗。謝らなきゃいけないことがあるんだ」
彼は足を止めた。
「海斗から頼まれた手紙を、渡せなかったんだ。あの日、風が強くて・・・」
唇を噛む。
「いや、違うな。僕も好きだったんだよ。礼奈のこと。お前より前からずっと好きだったんだ。渡すのを、躊躇した。そして結局渡さなかったんだ」
彼の表情は分からない。
「お前が病気だったなんて知らなかった。あの後、死ぬほど後悔したんだ。お前に会いたいと、何度も思ったよ。一生取り返しのつかないことをしたんだ。謝ってすむことではないけれど、謝らせてくれ。すまない」
頭を下げる。彼の表情は分からない。

「病気だと知っていたら、渡していたのか?」
顔を上げると、彼は困ったように笑っていた。
「なあ、俺も陸に謝らなきゃいけないことがあるんだ」
彼は遠くを見るように言った。
「実はお前に渡した手紙は、二回目に書いたやつなんだ」
「二回目・・・?」
初耳だった。彼が二回も手紙を書いたなんて聞いていない。
「一回目に手紙を書き上げてから、俺は偶然、礼奈さんが友達と話しているのを聞いたんだ。それは恋の話だった。残念ながら、礼奈さんの好きな人は俺じゃなかった。礼奈さんと友達は、秘密の恋の話を俺に聞かれたから、ひどく戸惑っていた。俺だって聞きたくて聞いたわけじゃなかったさ。日直で放課後、次の日の授業の荷物を運んでただけなんだ。俺は礼奈さんに口止めされた。今の話は聞かなかったことにして、誰にも言わないで、と。俺は約束した。そしてその日、初めて書いた手紙を破って捨てたんだ」
 風が轟々と鳴っている。気がつくと砂が足下に舞い上がっていた。
「二回目の手紙は、どうしても、書かずにいられなかった。誰にも言わないと約束したとはいえ、何とかして伝えたかったんだ。俺、実は気づいていたよ。あのとき、道場で俺が礼奈さんのことを好きだと言ったとき、お前は俺と目を合わそうとしなかった。いつもなんでも祝福してくれるお前が、おかしいなと思ったよ」
風がいっそう強くなった。
「なあ、本当に謝らなきゃいけないのは、俺の方だ。約束したとはいえ、ちゃんとお前に言っておくべきだった。お前が礼奈さんに手紙を渡していないのも薄々分かっていた。でも、言えなかった」
彼はポケットから手紙を出した。青い便箋の、十年前、海の彼方に消えてしまった手紙だ。
「陸、今からでも遅くないはずだ。もし戻ったら、必ず手紙を渡してくれ」
彼は微笑んで、僕に手紙を渡した。砂嵐はいっそう強くなり、目の前に砂の壁を作っていく。
「なあ、・・・死ぬ前に会えなかったけど、俺はあの三年間が一番楽しかった。少なかった俺の人生の中で、お前と遊んでるときが一番・・・」
ゴゴゴゴゴゴ。
と音がし、足下の砂が崩れ落ちた。あっという間に僕の体は砂に飲み込まれていった。


××××××


 気がつくと、店の前にいた。店内を覗くとがらんとしていて、床には綿のような埃が散らばっていた。数あった砂時計はひとつも見当たらなかった。窓にあった文字も消えていた。
 ポケットには、彼から預かった手紙があった。取り出して、読んでみる。

礼奈さんへ

 突然手紙なんか書いてしまってすいません。この間のこと、改めて謝りたくて手紙を書きました。あの日、二人の話を聞くつもりはなかったのです。でも、聞いてしまったからには、俺の口からは誰にも言うつもりはありません。安心して下さい。
 今回この手紙を書いたわけは、俺の友達の陸のことです。礼奈さんも知ってのこととは思いますが、あいつは、口は悪いけれど、とてもいい奴です。ふざけたことばかり言うけど、本当は誰よりも友達想いで心が温かい奴なんです。
 でも、恋愛に限って言えば、鈍感で、ひどく鈍い奴です。礼奈さんの気持ちも、このままだと卒業まで気がつかないでしょう。
 俺の目で見る限りでは、きっと陸も礼奈さんと同じ気持ちです。でも、訳あって陸から礼奈さんに告白することはないと思うのです。(この理由は私情により言うことができません。すいません)
 俺からこんなことを言うのもおこがましいですが、どうか、陸をよろしくお願いします。何処から見ても、二人はお似合いの恋人になると思います。どうか二人で、お幸せに。

                                      
雨は上がって、空には虹がかかっていた。
止めどなく流れる涙は頬を伝い、晴れ渡った空の虹を滲ませ雫となり、落ちていった。

 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン