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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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二度目に蹴ったものは、なに

17/08/14 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:787

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 卵の数がよっつ。
 えいっ。一個キック。
 これでよし。雌のカッコウが自分の卵をモズの巣の中に混ぜる。似てる似てる、カッコウはほくそ笑む。似せて作ったんだもの。わかりっこない。巣の下では、蹴り落とされたモズの卵が、得られなかった命に追いつけず、クシャリと破裂して大地に吸われた。そよぐ風だけが、カッコウの罪に顔をしかめるも、できることは見て見ないふり。

 モズの母親が巣に戻ってくる。行われた殺戮も、仕込まれた爆弾も、彼女の母性の両翼に、包み込まれて匿名の一個と化す。さぁさぁ、もうすぐかしら? 産まれておいで、子供たち。大きくなって、元気に巣立つまで、面倒みるからね。よっつの卵は一様に母の献身を殻の中で甘受しているように見えたが、その実、ひとつの殻の中でだけ、返事の思念がすでに誕生していた。母さん、もうすぐ会えますよ。

 カッコウの雛はモズの卵たちよりも、早く孵化する。殻をフカフカの頭に乗せて、無垢な黒目いっぱいに世界を宿した雛の誕生に、モズの母は天に向けて鳴いた。感謝の相手がそこにいる気がしたのだ。あぁ、私の赤ちゃん。可愛い子。
 モズの母はそれから毎日、我が子に獲物を与え続ける。大きく嘴を開いて餌を待つ我が子は、何ものよりも愛おしかった。さぁ、早く残りの子たちも産まれておいで。兄弟仲良くね。

 残りのみっつの卵も、日ごとにぐいぐいと大きくなっていくカッコウの雛に遅れて、誕生する。モズの母は変わることのない情愛を感じていた。さぁ、少し遅れたけれど、お兄ちゃんに負けないで、大きくなるのよ。飛び方を教えてあげる。獲物の仕留め方を教えてあげる。尖った枝に突き刺すのよ。

 カッコウの雛はこう思っただけ。僕が一番大きい。だから、お母さんは僕だけに餌をくれなきゃ。なんだよ、足りないよ。邪魔するなよ。可愛くない、お前らなんか、可愛くない。
 カッコウの雛はモズの兄弟を巣から蹴りだしてしまう。そのキックは実の母である雌カッコウのキックと酷似して、そよぐ風の眉間に悲しみのしわを刻む。モズの雛たちは森の大地に受け止められて、命を失わずにいたが、巣と母の庇護を失った彼らの命は、捕食者の目には餌としか映らない、はずだった。

 おおう。ほぉう。ほぉう。ふわり、見て見ぬふりの風を颯爽と切り裂いて、三羽の雛をさらったもの。彼はゆく。目指す場所は決まっている。カッコウの巣だ。自分一人の羽音と寝息に満腹している、あの雌カッコウの巣だ。
 ちょっと、待ちなさいよ。
 ほぉう。
 あなたね、フクロウでしょう。
 ほぉう、そのとおり。私はフクロウだ。年老いたね。
 なにしてるの、じゃぁ。
 お前の子は、モズの母親が懸命に育てている。居なくなってしまった兄弟を、今頃躍起に探しているかもしれない。
 じゃぁ、返す場所を間違えてるよ。
 いや、お前の子はまたすぐに兄弟を巣から蹴落としてしまう。キックは得意だ。
 へへん。
 この子らをしばらく見てみろ。お前だって母親じゃないか。モズの母と同じはずだ。
 うるさくゆーんだね。ちょっと待ちなってんだよ。あんたもフクロウなら、そんな雛のみっつやよっつ、喰っちまうのが本当じゃないのかい?
 ほぉう。私はもう、年寄りだ。本能の鎧を脱ぎたくなったのさ。
 難しくってわからないよ。
 本能というのはやっかいだな。それが正義と疑うことができない。それはわかる。だから、これはただのお節介だ。お節介であり実験でもあるし、私の道楽でもある。魂とは、本能に勝って自由であれるのか。まずは私が率先して見せている。どうだ、私はこの子らを喰わない。
 余計なお節介をしてくれたもんだ。迷惑だよ。あんたが喰わないってんなら、あたしが蹴り出すだけだよ。
 そう言わずに、もう一度言う。お前の子は、モズの母が懸命に育てている。自分の腹の具合よりも、子の腹具合を案じて。自分よりも子を優先して食べさせている。
 うるっさいね。
 もうすぐ、お前の子はモズの母よりもでかくなるぞ。そうなるとどうなると思う?
 ばれちまうのかい? 気が付くのが遅いってんだよ。ノロマだね。
 いや、モズの母は疑わないだろう。自分の子だと、信じ続けるだろう。巣立ちまで育て続けるだろう。飛び方を教え、獲物の捕まえ方を教えるだろう。
 うるさいね。
 見てみろ。このモズの兄弟を。親から産まれてきたのだ。愛されて、守られて、当然に健やかに生き、眠れると信じている。
 うるさいね。
 親が守ってやらねば、生きてはいけないのだ。私の仲間にとっては、小鳥の雛は好物なのだぞ。
 う、うるさいんだよ。だって、この子らは、この子らは、あたしの子じゃないんだよ……。

 本能の鎧を、脱ぎさって軽く、魂の自由を、魂のやさしさを。フクロウの実験はどうなるのだろう。
 雌カッコウは再び、キックする。
 


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