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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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皇帝ペンギン〜氷上より愛を込めて〜

17/08/14 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:640

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 南極。真冬の気温は−60℃まで下がるという吹雪く大陸で、僕らの祖先がなぜ暮らそうと思ったか分からないけれど、生き物の中でも変わり者には違いない。
 僕らの名は皇帝ペンギン。よちよち歩く姿を見て、人間はその愛らしさに心ときめかせるらしい。嬉しいな、種族を越えてもメスにもてるのは大歓迎さ……おっと、こんなこと言ったらパートナーにつつかれるなぁ。
 そんな僕らは、地球上で一番大きなペンギンにして鳥類最高の潜水能力を持つという、もう一つの姿がある。『皇帝』だけあって意外とエリートだろ? それもこれも我が子を育てるためさ。
 さあ、何処までも透き通る氷上で僕らの愛を語ろう。皇帝ペンギンは、世界でもっとも過酷な子育てをする鳥といわれている。


 南極の海で短い夏を楽しんだ僕らは、冬へ向かう南半球の3月に繁殖地へと行進する。信じられるかい?あのよちよち歩きで、時に100qを越える長い旅路を行くんだ。勿論、氷が立ちはだかり、深いクレバスに阻まれることもある。けれど、太陽と星を目印に、僕らは次々と仲間と合流しながら、目的地へと一直線に歩き続ける。
 何千羽もの皇帝ペンギンの行く先は一つ。
 僕らの生まれた故郷、あの懐かしい氷原を目指すんだ。


 ついにたどり着いた繁殖コロニーでは、すでに愛の語らいが始まっている。パートナーは毎年変わるので、オスもメスも運命の相手選びに一心不乱さ。
 こうして本格的な冬の始まる前に3000組以上のカップルが決まると、お互い1羽の相手とだけ交わり1つだけ授かる生命を育ててゆく。パートナーは変わっても、この愛はオンリーワンなんだ。
 僕らは巣作りしない。うっかり卵を氷の上に置こうものなら数秒で凍り付く、そういう場所だからね。卵を抱き、ヒナを育てることは足の上で行われる。
 海を離れて餌も食べず、卵を産み落とす奇跡の瞬間を僕らは共有する。命の神秘だ。そしてメスは足の上でオスに卵を渡すと、急いで旅に出かけなければならない。来た道を戻り、海へ漁に出かけるんだよ。メスは我が子の誕生に立ち会えないけれど、たっぷり栄養を取って、ヒナに餌を与える大切な役目があるんだ。ぐずぐずしてはいられない。
 オスはその間の2か月、貴重な生命を預かる。
 ざっと約6か月絶食するけれど、僕らの親も、その親もやり遂げてきたことだから、大丈夫、きっと出来ると信じられるんだ。


 6月、高波のようなブリザードが襲ってくる。
 本格的な冬だ。僕らはハドルという集団をつくり寒さをしのぐ。押しくら饅頭のように密集し、体温を保護するのだ。
 長い冬、卵を抱いて立ったまま僕らは耐える。
 
 8月。
 コツッ、コツッ。
 ほら、卵から新しい生命が生まれようとしている。
 こんにちは、初めまして。
 小さなヒナがピィピィと答える。
 感動の対面だ。

 でもまだ、おめでとうを言うのは早い。コロニーには掟がある。ある時期までメスが帰らなければ、オスは生まれたての我が子を置いて海に出かけなければならない。子供は死んでしまうだろう。けれど親が生き残れば未来に命は紡がれる、それが自然界の厳しいルールなんだ。


 飢えたオスは腹で蓄えた餌をヒナに与えながら、1日中祈るような気持ちでメスの群れの帰りを待つ。雪をかじりながらまだかと……ああ、帰って来た!
「あなた無事だった?」「ヒナも元気さ」……そんな再会もつかの間、今度はオスの群れが旅立つ番だ。メスはヒナに餌を与え氷原で待つ。また長い旅が始まる。
 もうフラフラだし、海までたどり着いてもアザラシが待ち受けている、この旅で命を落とすオスも多いんだ。
 けれど、僕らはペンギンの中の皇帝。
 海中では弾丸の素早さで天敵の攻撃をかわし、魚をたらふく食うことが出来る。
 僕らは飛べないし、速くは走れない。でも、この時ほどペンギンに生まれて良かったと思う事はないだろうね。


 交替で旅を繰り返すうち、餌をたくさん食べたヒナは見違えるほど大きくなって、自分で氷原の上を歩けるようになる。その頃になると、オスとメスは同時に海へ出かけ、ヒナたちだけの集団が作られる。群れ全体が移動して海へ近づき、独り立ちの準備が始まるんだ。
 寒さが緩み、夏に近づく12月から1月、ヒナの体は大人の羽毛に変わっていく。足元の氷は薄く割れ、その下には青々とした海が覗くのが見えるだろう? これが第二の故郷、極寒のパラダイスさ。旅立ちに別れは言わない。愛と知恵は、ちゃんと遺伝子の中に詰まっているからね。


 見てごらん。姿を消した親鳥を真似て、ヒナは次々と海に飛び込んでゆく。皇帝ペンギンの長い歴史に、新たな世代が加わる瞬間だ。僕らの暮らす地球は、なんてドラマティックなんだろう!
 心配ない、彼らにはまた会えるよ。
 何年か後、美しく凍りついた僕らの故郷で。


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このストーリーに関するコメント

17/08/21 冬垣ひなた

≪参考資料≫
・ドキュメンタリー映画「皇帝ペンギン」
・ドキュメンタリーTV「潜入!スパイカメラ〜ペンギン 極限の親子愛」

≪補足説明≫
・こちらの画像はPixabayからお借りしました

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