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マナーモードさん

推理小説が好きです。童話も書いてみたいと思っています。

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初めてですが

12/12/03 コンテスト(テーマ):第十九回 時空モノガタリ文学賞【 クリスマス 】 コメント:0件 マナーモード 閲覧数:1855

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 米田浩は今年の春、信号待ちをしているときに追突されてしまった。三十年も車に乗っていて、初めての経験だった。事故後、すぐに救急車で病院に運ばれた。
それ以来、首と肩と背中と腰が痛くなった。
自宅に近い整形外科に四箇月通ってみたが、理学療法士たちの心のこもった治療も虚しく、一向に良くはならなかった。そのため、米田は仕事中に車を停めて寝てばかりだった。歩合制の仕事なので収入が激減した。彼の仕事はタクシーの乗務だった。
米田がその広告をネットでみつけたのが年末になってからのことだった。彼の身体の痛みは、足にまで拡がっていた。広告を読むと「梨状筋症候群」というものに依るかも知れないことがわかった。
 米田は早速その漢方薬店に電話した。
「ネットの広告を見ました。腰も痛いんですが、最近は特に足が痛みます。立っているだけで辛いんです。歩くと更に苦痛が大きくなって、倒れそうな気がします。四箇月間整形外科に通ったんですが、治療の効果がなかったんですよ。そちらの漢方薬なら治りますか?」
「絶対に治るとは断言できません。ですが、長期間服用を続けることに依って改善する可能性はあります」
米田は目の前が明るくなるのを感じた。しかし、この薬は高価だった。収入が激減している上に、アパートの契約の更新や、滞納していた電気料金、プロバイダーへの支払いなどを済ませた彼にとって、これを入手することは困難だった。
 それを薬店の主人に打ち明けた。
「藁をも掴む想いとはこのことです。ただ、現金が今は殆どありません。大袈裟に聞こえるかも知れませんけど、餓死寸前なんです」
ちょうどそのとき、米田の腹が悲鳴をあげた。
「相当にお困りのようですねえ。こういうことは創業以来初めてですが、明日荷造りして発送します。お支払いは来年の一月のお給料のときで結構ですよ。今日はクリスマスイブでもありますからね」
そう、優しい声で云ってくれたのだった。
 米田は本当に感動した。このせち辛い世の中に、このような温かい心の持ち主が存在していたのかと、心から感謝し、その思いを伝えた。
「ありがとうございます。地獄に仏とはこのことです」
 声の感じから察すると、高齢らしいこの店主から見れば、米田はただ電話で、このような症状で非常に困っているのだと訴えるだけの、見ず知らずの全く信用できない人間である。薬は決して安いものではなかった。ちゃんと代金を支払うかどうか判らない人間に対して即、発送しますと云ったこの店主の優しさに米田は感動した。
「明日の朝発送します。早ければ明後日には薬が届くかも知れません。早く良くなることをお祈り致します」
「ありがとうございます。風邪をひかないように気をつけて、お仕事頑張ってください」
「お互いに頑張りましょう。ちょっと早いかも知れませんが、良い新年をお迎えください」

                   了


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